研究課題/領域番号 |
23520039
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
山本 史華 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (20396451)
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研究分担者 |
井上 健 東京都市大学, 共通教育部, 准教授 (40259726)
稲葉 景 星美学園短期大学, その他部局等, 講師 (60599041)
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キーワード | エートス / 日常 / 地域コミュニティ / 地域運営学校 / 初等教育 / ポスト3.11 |
研究概要 |
地域コミュニティの日常に現れるエートスを次のような形で取り上げた。 山本は、昨年に引き続き世田谷区T小学校で「いのちを考える」と題した倫理ワークショップ(2012年8月23日)を開催した。また、「日常のありか 放射性廃棄物と脳死への倫理的応答」と題した論文を発表し、日常から乖離した判断の問題性を論じた。さらに、東北哲学会第62回大会(2012年10月20日、東北大学)のシンポジウム「ポスト3.11の哲学・倫理学的課題」では「日常と疑似形而上学」と題した研究発表を行い、科学技術が疑似形而上学化していることを指摘した。そのシンポジウムの他のシンポジストは小野原雅夫(福島大学)、竹之内裕文(静岡大学)である。 地域運営学校では「学校運営委員会だより」などが発行されており、そこには目標とする「コミュニティ・スクール」像が示されている。しかしながら、それらは短い文書であることが多く、それだけでは学校の状況や活動を正しく評価することは難しい。そこで井上は、T小学校の関係者に協力を求め、彼らが何を思い、どんな活動をしてきたのかについてのヒアリングを行い、「学校運営委員会だより」の「背景」を検討・考察した。ヒアリングは来年度も継続し、その成果は紀要などに報告する予定である。 稲葉は、昨年に引き続き、キリスト教教育におけるコミュニティに関する研究を行った。西洋では伝統的に共同体のエートス形成の中心はキリスト教共同体である。3・11東日本大震災以降、原発被害で自由な外出の出来ない福島のカトリック教会の子ども達を、同じようにかつて震災にあった神戸のカトリック教会に連れて行き、外でそれぞれの子ども達を交流させることで神戸と福島の子ども達のエートスにどのような変化が起こるのかを調査した(調査は現在進行中。来年度、報告を論文として白百合女子大学キリスト教文化研究所紀要に掲載予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文や学会発表などの研究成果は少ないかもしれないが、これには大きく二つの理由が絡んでくる。一つは、東日本大震災によるエートス変容を理論的に捉えることを課題として組み入れたが、この領野の研究は現在進行形であるため、先行研究などによる学問的基盤が十分に形成されておらず、方法論の確立から始めなければならないという困難さを伴っているためである。もう一つは、地域コミュニティのエートス変容を定量的に測るためのアンケート調査を実施する計画であるが、その調査は最終年度に行う予定でいるため、現段階では調査研究の成果が形として表れていないためである。以上の理由を勘案すれば、計画の進展は「おおむね順調」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
山本は、科学技術社会論(STS)の分野を視野に入れ、現代の科学技術が日常に与える影響を考察していく予定でいる。というのは、脳死臓器移植のような生命倫理の問題にせよ、ポスト3.11の核心である原発事故の問題にせよ、現代の倫理(エートス)は科学技術と相即不離であるからだ。我々が日常を生きる限り、科学技術はさほど意識されないかもしれないが、それはもはや意識されないほど深く日常に浸透しているからだろう。その事実は、しかし、科学技術の判断に日常が従属すればよいことを意味しはしない。はたして、日常の判断と科学技術の判断はどのような関係が適切であるか、それを考察の主題としていく予定である。 井上は、次のように計画している。「研究実績の概要」で述べたように、学校運営委員会が保護者や地域住民に対して発行している「学校運営委員会だより」などの文書は、その学校の「地域運営学校(コミュニティ・スクール)としての取り組みを示す重要な一次資料である。しかしながら、そうした文書も時間の経過とともに散逸してしまう危険があり、また、文書を適切に理解するためには、関係者の証言とあわせて読んで行く必要がある。そこで、関係者の協力を得ながら「T小学校学校運営委員会の活動記録」をまとめていきたい。 稲葉は、井上とともにコミュニティのエートスを捉えるための長期的な研究として、世田谷区のコミュニティ・スクールの調査研究の下準備をしており、来年度には具体的なアンケート調査の作成・実行・分析をする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、アンケート調査の可能性を見込んで経費を計上したが、結局行わなかったために残金492,546円が生じた。ただ事業期間内に、地域運営学校に指定されている世田谷区T小学校ほかで、アンケート調査を行う予定でいる。来年度は、アンケート調査を統計解析するためのソフト購入、調査のための準備、計画、資料整理等に残金分を使う予定でいる。 また、ポスト3.11を各学会がどのように受け止めているのかを広く調査するための旅費も計上している。
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