平成25年度は本研究の最終年度にあたり、平成23年度・平成24年度に進めてきた研究成果を踏まえつつ、それをさらに進展させると共に、3年間の研究全体を統一的・総合的な視点から取りまとめることに専念した。生命・技術・文化を自然という観点から俯瞰するならば、おそらく中心的な位置を占めるのはまず何よりも、技術と文化の根底にあってそれらを貫く生命ということになり、したがってこの生命を中心としつつ、生命・技術・文化の三つを自然との関係でどのように捉えるべきかが問題となる。そこでミシェル・アンリの「生(生命)の現象学」を一つの手がかりとして、生命が一つの場所として理解される際に、そのような場所が自然というそれを包括する場所の中でどのような存在様態を持つか、またこの生命の存在様態をこうして位置づけた時に、それが技術と文化に対してどのような関係にあるのかを考察した。またその場合の生命は実体的なものとして理解されるべきではなく、あくまで或る種の「出来事」のようなものとして捉えられるべきである。そこで生命をジル・ドゥルーズの出来事の哲学の観点から再考することにした。その結果、生命とは複数の情念の関係する中での特異化というプロセスにより生じる出来事として捉えることが可能であり、そのプロセスにとっては複数の情念の関係を規定する場としての「情況」という概念が不可欠であることが明らかになった。しかしこの「情況」が「自然」とどのような関係にあるのか新たな課題として残されることになった。また以上のことを踏まえて、通常言われる意味での自然/人為という区分の妥当性を問い直すことも必要となる。
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