プラトンの後期対話篇である『ポリティコス』を、中期の対話篇とりわけ『国家』との関連で検討し、その上で『ポリティコス』の 総合的検討を目指す本研究の最終年度において、『ポリティコス』の理想的な政治家が『国家』の哲人王といかなる関係にあるのかを問うた。その結果、両対話篇とも政治的知と哲学的知とを併せ持つ事が可能であると論じているが、『ポリティコス』の理想的な政治家が『国家』の哲人王と同じなのではなく、理想国の創設者と同一視されるべきであるとの解釈を提出した。 また、本研究のもう一つの目的であったプラトン中期の問答法と後期のそれとの関係については、政治的知が弁論術の上位にあり、いわば配下に収めているという『ポリティコス』の主張を解明すべく、『ゴルギアス』における弁論術の扱いをめぐって発表した。一般の弁論術は論じている事柄についても説得の対象の聴衆の魂の状態についても知らないのに対して、ソクラテスは事柄についての知識を持っていないが、対話相手の魂の状態を把握しているという意味での知識を有しているというのがその主張である。この知見が『ポリティコス』の弁論術の把握と問答法のあり方とにどのように関係するかは今後の課題である。 さらに、プラトン後期における『ポリティコス』の位置に関しては、『ポリティコス』のミュトスにおける神の性格付けについて考察すべく、『法律』における神と知性と魂との関係を問う研究を進めた。魂なしに知性が存在しえて、それがプラトンにとっての究極的な神ではないかという解釈を提出する論考を執筆済みであるが、更に研究を深め、十全な形で発表する予定である。
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