最終年度は、前年度までの研究を基礎として、プライバシー概念の広がりを整理し、個別的な問題について研究発表を行った。法学者D. J. Soloveによる定評あるプライバシーに関する理論書Understanding Privacyを翻訳刊行し、解説を執筆した。本書の翻訳・解説執筆作業を通じて、プライバシー情報の文脈依存性とプライバシー概念の多義性についてその広がりを確認し、整理を行った。この研究成果をもとに、応用哲学会(2013年4月)で、プライバシーの文脈依存性とプライバシー概念の多義性について、前出のSoloveおよびH.Nissenbaumの理論における取り扱いを整理した。これらの理論的整理に基づき、電子情報通信学会技術と社会・倫理研究会および情報倫理学研究会などで、プライバシーの社会的価値、「集団プライバシー」概念、日本におけるプライバシー概念、図書館とプライバシー、SNSにおける子どもの自律とプライバシー、医療情報に関するプライバシーに関して研究発表を行った。 研究期間を通じて、情報倫理学研究会を組織し、研究会の開催運営を行うことによって、哲学・倫理学者による情報倫理学研究を推進する国内体制の基盤を築いた。幅広い分野の先行研究を概観し、プライバシー概念の複雑さ(多義性・文脈依存性)を扱う理論書の翻訳を通じて、プライバシー概念の広がりを確認し、現代における整理の方針を得た。現代における個別のプライバシー侵害などの問題について、研究発表およびエッセイ執筆を通じて考察した。情報倫理学教科書1冊、応用倫理学教科書における情報倫理学項目の執筆1冊、翻訳書1冊、プライバシーに関する学術発表8本、情報セキュリティとプライバシーの現代史に関する学術論文1本、プライバシーに関するエッセイ形式の論文12本を発表した。
|