研究課題/領域番号 |
23520052
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
神塚 淑子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (20126030)
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キーワード | 中国哲学 / 道教 / 霊宝経 / 敦煌写本 / 陸修静 / 温室経 / 洗浴経 |
研究概要 |
今年度は、本研究課題の2年目にあたる。昨年度末(平成24年3月)には、『敦煌道教文献研究―綜述・目録・索引』(中国社会科学出版社、2004年)の著者であり、長年、道教関係の敦煌写本の研究に従事してこられた王{上下}氏を日本に招聘し、日本国内に所蔵する敦煌道教写本を一緒に閲覧するとともに、名古屋大学において小規模なシンポジウムを開催した。 今年度は、昨年度の閲覧調査をふまえ、日本の国立国会図書館に所蔵する2点の道教関係の敦煌写本についての論文「国立国会図書館所蔵の敦煌道教写本」を著した。2点の写本とは、「金録晨夜十方懺残巻」と「道教叢書(目録には叢書とあるが実は類書)残巻」である。前者についてはこれまでにも紹介されていたが、後者については全く知られていなかった。昨年度、王{上下}氏とともにこの写本を調査したときに、王{上下}氏はこれをフランス国立図書館に所蔵する敦煌写本ペリオ2443と同一の書物を書写したものであろうと指摘された。その後、私は王{上下}氏の指摘をふまえて、この写本の内容を丹念に調べたところ、これは『無上秘要』などとは異なる形式で編纂された道教類書であり、ほかには見られない佚書・佚文をも含んでいて、六朝隋唐時代の道教を研究する上できわめて重要な資料であることが明らかになった。 また、今年度は、東アジア仏教研究会年次大会において、「仏典『温室経』と道典『洗浴経』」と題する口頭発表を行った。唐の李栄が仏教に対抗して作ったとされる『洗浴経』は、敦煌写本「太上霊宝洗浴身心経」がこれに相当すると考えられている。本発表は、敦煌写本「太上霊宝洗浴身心経」に見られる道教思想史上の問題点を仏典『温室経』との比較において考察したもので、近日中に論文にまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、近年になって新たに発見・紹介された写本を含む敦煌道教写本を用いた実証的な研究によって、霊宝経の成立と展開の状況を解明することを目的としている。 研究の2年目にあたる今年度は、上欄に記したように、これまで紹介されていなかった日本の国立国会図書館に所蔵する道教類書の写本について、閲覧調査した結果をまとめた論文を著すことができた。また、これも上欄に記したように、敦煌写本「太上霊宝洗浴身心経」の研究に着手し、口頭発表を行った。これは、仏・道二教間の論争がさかんに行われた唐代初期の宗教状況を知る上で重要なものであり、霊宝経の展開を示す一側面と捉えることができる。 また、杏雨書屋所蔵の敦煌写本の影印が出版中であるが、その中の道教関係の写本について、道蔵本との比較等の調査を継続して行っている。 以上により、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題(3年計画)の最終年にあたる。今後の推進方策として、第一に、今年度から継続として、敦煌写本「太上霊宝洗浴身心経」に関する論文をまとめ、唐代初期の霊宝経の展開を、当時における宗教の全般的な状況の中で考える。 第二に、研究の初年度から継続して行ってきた古霊宝経の敦煌写本と道蔵本との対照の作業を、大淵忍爾『敦煌道経 目録編』に挙がっていないものを中心に行い、対照表を完成させ、六朝期における霊宝経の状況を明らかにする。 以上のような方策により、敦煌道教写本(新たに発見・紹介された写本を含む)を用いて霊宝経の成立と展開の状況を解明することを目的として始めた本研究課題は、一定の成果を得ることができると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の残額はごくわずかで、ほぼ当初の予定額を使用したと言える。残額分は、次年度の物品費に使用する予定である。
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