研究課題/領域番号 |
23520058
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
佐藤 実 大妻女子大学, 比較文化学部, 准教授 (70447671)
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キーワード | 中国 / イスラーム / 金天柱 / 清真釈疑 / 儒教 |
研究概要 |
金天柱が著した『清真釈疑』の本文の構成をまず分析し、ただ単純に対話形式で書かれているのではなく、対話部分が金天柱のモノローグによる序章と終章に夾まれていることで、戯曲形式になっていることを明らかにした。読者層を非ムスリムにおいていることが原因のひとつとかんがえられる。また、対話相手は親友である非ムスリム陳大韶である可能性がある。さらに全体の構成として、金天柱がじしんのことを指す一人称代名詞について、「予」と「余」の二通りあり、前半の第六番目の質疑応答までは「予」、第七番目以降は「余」となっている。有意な差異があるのか、今後の課題である。長楽齋版(民国10年清真書局年本)と光緒2年鎮江本のあいだには文字の異同があり、注意を要することもわかった。資料収集によってテクストクリティークが可能となったことは、これまで校勘がしっかりとなされていなかった『清真釈疑』研究において一定の意義を有し、今後は定本作成にむけて尽力したい。 内容分析について、金天柱は、儒家の経典を頻繁に引用しているだけではなく、儒家の倫理道徳理念や儒家が理想とする社会規範にそって生活を営んでいることを強く自負している。したがって出家や隠遁・隠逸にはしる仏教徒、道教徒をきびしく批判するが、その際に援用されるのが「論仏骨表」をはじめとする韓愈の言説である。また、そうした理念や規範を遵守していない儒者たちにたいする非難もみられるが、その批判の論点もじつは韓愈の言説に対してであった。このように、清初のムスリムが儒者以上の儒者であることに強い矜恃をもっていたこと、また仏・道批判の論拠に韓愈があげられるのみならず、儒者批判にたいしても韓愈を批判対象としていることを明らかにした。当時のムスリムにおける儒教社会にたいするまなざしの一例が看取できたことは意義があろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テキストの構成と内容の分析について、今年度は進展があった。その理由として、時間をかけてテキストと向き合うことができたことがあげられる。また文体にも慣れてきたことも理由のひとつであろう。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、テキスト分析を行う。その際に、今後は同時代あるいは明代における儒教と仏教との関係、あるいは儒教とキリスト教との関係についてもなるべく視野を広げておきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
資料の収集、とくに仏教とキリスト教関連の一次・二次資料を中心に収集したいので、その費用にあてる予定である。
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