研究課題/領域番号 |
23520063
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
後藤 敏文 東北大学, 文学研究科, 教授 (40215497)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 業と輪廻 / ヴェーダ / 仏教 / アヴェスタ / 死後の観念 / インド・イラン文献学 / インド・ヨーロッパ語比較言語学 / 古代宗教 |
研究概要 |
「業」と「輪廻」の理論は仏教の基本概念を形成するに留まらず,インド思想史を貫く公理であり,先行するヴェーダ宗教における祭式理論の展開の上に築かれたものである。本研究は,リグヴェーダ,サンヒター文献,ブラーフマナ文献,ウパニシャッド,仏典をはじめとする関連箇所を検討して精密な翻訳,注解を作成し,その具体的展開次第を信頼できる資料として提供することを目的とする。さらに,ゾロアスター教の『アヴェスタ』に見られる死後の観念との比較を通じてインド・イラン共通時代に遡る要素の残存についても確定を試みる。本年度の主な実績は下記の通り。 「業と輪廻」について,これまでに得られた知見を総点検して叡山学院研究紀要34号(平成24年3月発行)43-62頁に発表した。 『リグヴェーダ』(前1200年頃編集)に収められる葬送の歌(X 10-20,特にX 14)を再検討した。併せて,これらの讃歌が『バウダーヤナ・ピトリメーダスートラ』をはじめとする後の葬送儀礼の規定にどのように用いられているかを確認し,古代インドの葬礼を巡る観念の大筋を検討した。その他,当該テーマと関わる観念が隠されている『リグヴェーダ』讃歌の様々な箇所を点検整理した。 『ジャイミニーヤ・ブラーフマナ』の死後の道を巡る言説(I 17-18, I 49-50) は理論の確立にとって重要な転回点を画するものであるが,再度詳細に検討を加え,現時点における理解を確定した。併せて,後のインド世界における「公理」の位置を占めるに至った『ブリハッド・アーラニャカ・ウパニシャッド』IV 4との関連を検討した。 「業と輪廻」を構成する諸要素がどこまでインド・イラン共通時代に遡るものかについては未だ明らかではないが,共通時代の言語文化の背景を探り,さらに,印欧祖語時代の観念を引き継ぐ要素を求めて基礎作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究者は『リグヴェーダ』研究の最先端にあるものと自負しているが,同文献をはじめ,ヴェーダ文献研究の基礎となる言語の解明には未だ達成されていない部分が残る。このため,ここ2年ほどOld Indo-Aryan Morphology and its Indo-Iranian backgroundと題する著作の出版に多くの時間を割いたが,最終的に印刷に回された(オーストリア学士院 2012)。 実施計画に記した『リグヴェーダ』については,予定した X 14-,X 135, I 105をはじめ,他の関連箇所についても作業を終えた。サンヒター文献については次年度にブラーフマナ文献と併せて検討することとした。次年度に予定していたブラーフマナの一部については,既に検討を終えた。
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今後の研究の推進方策 |
概ね,申請書の実施計画に記した通りである。24年度はサンヒターおよびブラーフマナ文献について検討を行い,完成原稿の形に仕上げる。年度の後半には,仏典の調査検討に移る。 最終25年度前半には,医学書,ジャイナ経典からの知見を抄録し,『アヴェスタ』,特に『ハドークフト・ナスク』II 8以下を精密に検討して原稿の形に仕上げる。後半には,以上の文献研究から得られた知見を吟味して立体的に組み立て,「業」と「輪廻」の展開史の解明に努め,分析を加える。それらを,信頼できる資料集と分析解説,概観としてまとめ,出版原稿として仕上げる。年度の中頃には,成果を他の研究者,興味のある人々と共有し,より理解しやすい普遍的な水準で提示できるように,仏教研究,宗教学の分野から研究者を招いて,公開討論会を開く。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の予算の未消化分6,493円は,購入予定の書籍の必要額に足りなかった為,次年度に繰り越したものである。退職転居に伴い,文具等に当てることは控えた。 海外での学会発表として,5月にウィーン,9月にブカレスト(およびママイア)に赴く予定である。後者は一部招待によるが,この機会を利用して,ドナウ河口とトランスシルヴァニア地方を2011年度に引き続き訪れ,インド・ヨーロッパ語族のヨーロッパ拡大の事情に関して抱いてきた年来の疑問点の確認に努めたい。国内の学会としては,印度学宗教学会(6月仙台),印度学仏教学会(6月鶴見),日本歴史言語学会(12月千葉)に出席を予定している。 引き続き,文献調査とコンピュータ入力とに努める。最近比較的多くの研究書が出版されているのでそれらを入手する。過去に出版されたテキストについて,一部コピーを入手する必要がある。 退職に伴い,盛岡の自宅で作業を行うため,東北大学における事務処理,図書貸し出し,コピーなどに助力が必要で,そのための研究補助にもしかるべき支出をする。
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