中世初頭、禅宗が南都の法相宗、律宗、華厳宗にも影響を与えたが、それは東福寺円爾辨円の臨済系の禅であり、その中心に永明延寿の著作である『宗鏡録』が存在した。東大寺戒壇院の円照、凝然などの諸僧及び生駒竹林寺の良遍に影響が顕著に見られる。良遍は『真心要決』で見聞覚知があっても認識のない無分別智の境地を覚りの境地とし、それを禅の本来固有の本有仏心であると捉えた。 円照は伝記資料に残された否定的な表現から禅的な理解が確認される。凝然は初期の『日珠鈔』から晩年の『華厳宗要』に至る過程で、妄心よりも真心を強調する傾向に展開し、華厳の行として頓悟頓修を認め諸行が是認されるが、それも『宗鏡録』の主張と一致する。
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