研究課題/領域番号 |
23520067
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片岡 啓 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (60334273)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ニヤーヤ / 仏教論理学 / アポーハ / ジャヤンタ / ニヤーヤマンジャリー |
研究概要 |
インド哲学文献における言葉の論争史を明らかにすることを目的に,文献学上の基礎作業を行った.紀元後9世紀後半頃の北西インド・カシミールの学者ジャヤンタの主著『論理の花房』の校訂および訳注研究を行った.バラモン教学者ジャヤンタによる仏教の言語哲学批判である「アポーハ批判」の章を取り上げた. インド各地の図書館から収集したサンスクリット写本を用いて校訂した報告者自身の批判版を用いて,詳細な訳注研究を行った.その成果がジャヤンタの「アポーハ論批判」として『哲学年報』に論文掲載されたものである.仏教とニヤーヤ学派との論争史を明らかにするために,仏教側の資料および関連するミーマーンサー学派の資料も幅広く調査するとともに,仏教論理学研究者にも適宜助言を仰ぎ,精確を期した. また,同じ『論理の花房』の第五日課の冒頭の「仏教徒による普遍批判」章を取り上げ,写本に基づく校訂を行った.すなわち,先行する二つの刊本および三つのサンスクリット写本を校合し,批判テクストを作成した.異読のみならず,平行句の調査などにこだわった.その成果が,東京大学附属東洋文化研究所の紀要に論文掲載されたCritical Edition of Bhatta Jayanta’s Nyayamanjariである. また,仏教論理学とバラモン教との批判応酬の歴史的過程を明らかにするために,認識論をめぐる彼らの論争史の一端を取り上げた.それが「自己認識と二面性」の学会発表および論文であり.成果は『印度学仏教学研究』に掲載された. さらに,同じ問題について,先行研究の問題点を明らかにするため,英語論文を作成し,台湾の法鼓山仏教学院で行われた「国際仏教学会」にて発表した.以上のように,本年度は,言語哲学上の論争史を,写本から基礎的に研究するとともに,思想史に即して明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた訳注研究を九州大学文学部の紀要に掲載することができた.また,当初予定していた写本に基づく校訂論文を,東京大学附属東洋文化研究所の紀要に掲載することができた.さらに,より根本的な問題として論争史を位置づける発表・論文を成果として残すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
バラモン教と仏教との言語哲学をめぐる論争史を,引き続き,文献学的に研究する.すでに発表した信頼できる新規校訂本に基づく訳注研究がメインの仕事となる.新たな思想史構築に向けた視点のもと,訳注研究に取り組む.具体的には,ジャヤンタが『論理の花房』で描き出す仏教徒によるクマーリラへの再批判について訳注研究を行う.クマーリラの批判を受けて,ダルマキールティがどのように理論を構築したのか,また,ダルモッタラがダルマキールティ説のいかなる点に不備を見出したのか,その思想史上の発展を跡付ける基礎作業を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
ジャヤンタが『論理の花房』で描き出す仏教徒(ダルマキールティ,ダルモッタラ)によるクマーリラへの再批判について訳注研究を行う.具体的には,批判校訂版の訳注を作成する.前提となるクマーリラのアポーハ批判について,アメリカ人研究者と検討会を行う.そのためのアメリカ渡航費用を計上する. また,これまでの研究での成果を,国内学会で発表する.
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