研究課題/領域番号 |
23520067
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片岡 啓 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (60334273)
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キーワード | 仏教論理学 / 意味論 / アポーハ論 / ディグナーガ / ダルマキールティ / ダルモッタラ / ジャヤンタ |
研究概要 |
紀元後900年頃のカシミールの哲学者であるジャヤンタが残した『論理の花房』を主要研究対象として,報告者が校訂したサンスクリット原典テクストに基づき文献学的な研究を行った.仏教の意味論・概念論であるアポーハ論を扱う箇所を取り上げ,訳注研究を行った.本箇所は,インド哲学の分野の中でも,言語哲学を取り上げた部分であり,バラモン側が,仏教の意味論・概念論であるアポーハ論を批判的に取り上げる箇所である.前年度の研究成果を踏まえながら,今年度は,聖典解釈学からの批判に答える仏教側からの再反論を扱った.成果は,「『ニヤーヤ・マンジャリー』「仏教のアポーハ論」章和訳」と題して,九州大学大学院紀要である『哲学年報』に2013年3月に掲載された.本成果は,新たな校訂本に基づく初の和訳であり,その詳細な注記とともに,今後の研究の土台となるものである.また解題において,ジャヤンタが前提としている仏教説を明らかにすることで,従来の研究で抜け落ちていた視点を明示することができた.ディグナーガ,ダルマキールティ,ダルモッタラという主要な三人の仏教徒が,ジャヤンタからどのような学説保持者とみなされていたのか,その思想史上の位置づけを明らかにした.さらに,仏教徒ダルモッタラの独特のアポーハ論について詳しく論じた.また,2012年夏に学会で発表し『印度学仏教学研究』に掲載された「ディグナーガの意味論をめぐって」と題した論文において,先行研究の理解の誤りを正すことができた.これまでの本邦における誤ったアポーハ論理解を正した点で重要である.また,ジャヤンタのアポーハ論の下敷きとなっている聖典解釈学者のクマーリラのアポーハ論理解について,主著『頌評釈』に立ち戻って詳しく検討することができた.その成果は上記の訳注研究の注記に反映されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
紀元後900年頃のバラモン教の哲学者であるジャヤンタが批判的に記述する仏教徒のアポーハ論について,その周辺とともに文献学的に明らかにすることが本研究の最大の目標である.当初に予定した通り,順調に注記と解題を伴った和訳を作成し,その成果を論文の形で発表できた.その意味で,まずは,当初の目標を達成できたと信じる.さらに,その基本的成果の上に,個別論文において,従来説を正す研究成果を上げることができた.すなわち,主要研究過程で明らかとなった個別事項に関して,別途,個別論文の形で発表できた.以上から,インド哲学文献に見られる仏教徒の意味論について,当初の目標以上の成果を上げていると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
報告者が写本に基づいて批判再校訂したジャヤンタの『論理の花房』のサンスクリット原典に基づき,引き続き,地道な文献学的研究である訳注研究を進める.すなわち,仏教のアポーハ論への批判,仏教徒による再反論に続く箇所である.そこでは,仏教説が否定され,ジャヤンタ自身の意味論・概念論が展開される.これにより,ジャヤンタの「普遍」論を詳しく知ることができる.また,アポーハ論にたいするジャヤンタ当時の批判方法について知ることができるはずである.また,これまでの研究で明らかとなった意味論・概念論の思想史について,その知見をまとめて一つの概念史,あるいは,思想史として概括する予定である.また,個別的な発見事項については,これまでと同様,学会で発表し,個別論文の形でまとめる予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
ジャヤンタの言語哲学については,論理学派だけでなく,仏教や聖典解釈学派といった多くの分野の知識を必要とする.訳注作成にあたっては,それら多くの分野に通暁したうえで,その背景を明らかにする必要がある.テクストの読解にあたって,他分野の人との意見交換が欠かせない由縁である.今年度は,仏教論理学研究の盛んなウィーンのオーストリア科学アカデミーの研究者の意見を求める予定である(旅費).また,2013年8月末に島根県で行われる印度学仏教学会において,仏教の意味論について,これまでの研究の成果を発表する予定である(旅費).また,論文作成に必要な資料については,随時,購入する予定である.
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