研究概要 |
紀元後9世紀、カシミールの学匠であるジャヤンタが残した『論理の花房』というサンスクリット原典の研究。そのうち、最終年度では、報告者が既に校訂出版した原典の訳注研究を予定通り論文の形で出版することができた。九州大学文学部の紀要である『哲学年報』73号(2014年3月)に掲載された「ジャヤンタの普遍論」である。これによって、3年間で、計画通り、報告者自身が校訂したサンスクリット原典に基づいて、三章の和訳を公表できたことになる。『哲学年報』72(2013年3月)には「『ニヤーヤ・マンジャリー』「仏教のアポーハ論」章和訳」を、そして、『哲学年報』71(2012年3月)には「アポーハ論批判」である。また、以上の文献学的手続きを経た着実な原典理解に基づいて、思想史構築の作業も行い、論文を公表することができた。「DharmottaraはApoha論で何を否定したのか?」(『南アジア古典学』8, 2013年)および「アポーハとは何か?」(『インド論理学研究』5, 2012年)である。いずれも、ジャヤンタの著作に基づき、かつ、ダルモッタラという仏教論理学者の視点を取り入れながら、アポーハ論の発展史を見直したものであり、従来の学界での見方に修正を促すものである。また、「日本印度学仏教学会」において二回の学会発表を行い、それを、論文の形で公表し得た。「ディグナーガの意味論をめぐって」(『印度学仏教学研究』61-1, 2012年)および「牛の認識は何に基づくのか?」(『印度学仏教学研究』62-1, 2013年)である。いずれも先行研究の解釈の誤りをサンスクリット原典に基づきながら正したものである。
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