研究実績の概要 |
東京大学総合図書館所蔵サンスクリット写本の実見調査を実施した。同館所蔵サンスクリット写本については、Seiren Matsunami, A Catalogue of the Sanskrit Manuscripts in the Tokyo University Library (Tokyo: Suzuki Research Foundation, 1965)(松涛目録)が公刊されているが、写本の実見調査により、同目録で未比定とされる断片の文献比定に成功したほか、同目録に未記載の断片を発見できた。写本の年代について、同目録では識語に記されているネワール暦の年号を記載するのみであるが、Yano & Fushimi, Pancanga Vers. 3.13を応用することにより、曜日等の詳しい暦日要素を識語に記す多くの写本の筆写完了日を西暦に換算し確定することができた。 8月ウィーン大学で開催された国際仏教学会では、研究代表者・研究分担者のそれぞれが、サンスクリット写本調査の成果を踏まえて研究発表を行った。研究分担者は、15世紀に東インドで作成されたことを識語に明記するサンスクリット仏教写本について論文を発表した。13世紀初頭、東インドの大規模仏教寺院がムスリム軍の攻撃で破壊された後、インド仏教が滅亡したとする従来の通説を覆し、15世紀中葉まで東インドで仏教が存続したことが同論文で実証された。 4年間の研究期間を通して国内外のサンスクリット写本の実見調査を実施し、多くの写本識語を正確に解読し電子テキストとして蓄積したうえで、地名・寺院名・王名・筆写者・寄進者・所有者等の情報を収集し、筆写年代を西暦に換算・確定できた。実見調査の副産物として写本の文献比定や目録未記載断片の発見にも成功した。従来、等閑視されてきたサンスクリット写本識語の研究に先鞭をつけたといえよう。
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