研究課題/領域番号 |
23520086
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研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
本多 峰子 二松學舍大學, 国際政治経済学部, 教授 (00229262)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 宗教学 / 西洋古典 / 倫理学 / 思想史 |
研究概要 |
申請時に予定していた書籍購入(ギリシア語大辞典を除く)、ケンブリッジ大学神学部図書館及びティンダルハウス図書館での資料収集などにより研究を進め、結論部を除き、第一草稿を完成した。渡英は申請どおりの計画で行ったが、二松学舎旅費規程により、結果として23年度の交付額はすべて旅費に使わせていただいた。 研究の過程で、旧約における「神の義」の概念が、(1)モーセ律法による法的義 と (2)アブラハム契約に忠実な救済的義(信義)との両側面を持ち、その両面には緊張があること、イエスの時代にはしばしば法的義が強調され、そこから、苦難を罪の罰と考える傾向が存在したことの重要性に考え至った。イエスの行った罪人の赦しの宣教や、病の癒しは、そのような応報思想を否定し、神の救済的義を前面に出すことであり、旧約聖書の中にあるアブラハム契約への信仰と思想的に継続していることを確認した。同時に、イエスが法的義をも排除せず、救済的義によって救われたことへの応答として、神の律法を実践することを重視し、特にその律法の本質である憐れみの要請に応え、神の憐れみの業に倣うことを説いていたことを論述した。一方で、イエス当時、アブラハム契約を強調する向きには、黙示的神の介在と終末の到来により実現する神の国を待望する思潮もあったが、イエスは神の国を、この世における愛の実践によって、終末ではなく現今の世界に実現させるべきものと考えていたことも論じた。 このことによって、病や禍を罪の罰と見る傾向、キリスト教のユダヤ教への優位とユダヤ教からの断絶を考えるユダヤ教への偏見、キリスト教を単なる心の問題、魂の救いにのみ関わる宗教として信仰生活と社会における実践を分けて考える考え方など、21世紀の今日にも見られる否定的側面に対する反証としての研究として、本論は進んでいる。学問的にも、社会的にも貢献できると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文執筆は研究進行に伴う見直しにより、当初の計画と章立てを変更したが、おおむね順調に進んでいる。ただし、24年度の予定として、研究のうちイエスに関わる聖書学内での考察を東京大学に博士論文としてまとめ提出すると申請した部分に関しては、東京大学での中間発表(リサーチコロキアム)の日程調整、審査教員の決定などの手続きが予定通りに行かず、遅延が生じる見通しとなっている。現在、中間発表を待たず、論文の完成に向けて研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
以下のように執筆済みの第一草稿の議論の不足、欠点を見直し、イエスの思想についての議論をまとめ、組織神学への提言への下地を作る。重要な部分については、新約学会と日本聖書学研究所での研究発表によって学会に問い、内容向上を目指す。序文 問題の所在、 I章 悪の問題と神の義―思想史的背景 (1悪の起源と悪の本質についての理解、2「神の義」の概念、3禍を下すのは神か?、4恩寵と応報の緊張、5病と穢れの問題、6悪霊とサタン、7貧者、弱者の存在と神の義、8死後の報いの概念の発達、9悪と罪の問題についての小結論)、2章 神の同情(1序―問題の所在と本章の目的、2splanchnizomaiの字義的意味eleeo、oiktiro、3福音書における「憐れみ」、4インマヌエルなる救い主、5本章の結論)、3章 罪と赦しの問題(1序、2罪人とは誰か、3イエスの譬えにおける罪と赦しの問題、4本章の結論)、4章 応答としての行為(1序、2ローマでの奴隷とヘブライ社会での奴隷の性質の違い、3イエスの譬えにおける奴隷の役割、4神の「憐れみ」と人間の隣人愛の行為の要請、5本章の結論)、 5章 病の癒し(1序、2イエスの治癒奇跡の伝統的見方―罪の赦し(禍の神義論)-の再考、3事例分析、4禍の神義論のアンチテーゼ)、6章 穢れ(1序、2イエスによる穢れの清め)、7章 サタンからの解放(1序、2事例分析)、8章 貧しい者への福音(1序、2「幸いなるかな貧しい人々は。神の国はあなたがたのものだから。」(ルカ6:20)、3 神の配慮 (ルカ12:22-31/マタイ6:25-33)、4イエスの譬えにおける裕福な者、貧しい者への使信、5本章の結論)、9章 この世を超えた報い、10章 結論。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初申請時に申請していた通りの旅行計画で、英国ケンブリッジ大学神学部図書館及びティンダルハウス図書館での夏期休暇中1ヶ月間の資料収集のための旅費、滞在費、及びティンダルハウス図書館使用料に使用させていただきたい。 余裕があれば、本研究の一部を発表する予定の学会、すなわち日本聖書学研究所と日本新約学会の年会費にも用いさせていただきたい。
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