研究課題/領域番号 |
23520088
|
研究機関 | 皇學館大学 |
研究代表者 |
櫻井 治男 皇學館大学, 社会福祉学部, 教授 (00087735)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 伊勢神宮 / 御師 / 伊勢信仰 / 社会変動と神道 |
研究概要 |
本研究は、明治4(1871)年に行われた伊勢神宮の制度改革の一環である「御師」の廃止が、地域社会・民衆との関係に与えた伊勢信仰への影響とその意味とを、旧御師で神宮の祭祀職であった「大物忌父」家(岩井田家)の伝来資料をもとに解明を試みるものである。研究の初年度となる平成23年度は、次の5点を中心に研究調査を進めた。 (1)岩井田家所蔵の未調査資料の確認、目録化と資料のデジタル化。(2)収集資料の解読と、研究推進のための内容把握・整理。(3)旧檀家地域における残存資料の確認及び現地での伊勢信仰の実態調査。(4)伊勢市(宇治・山田)における旧御師の廃絶とその後の状況についての概要把握。(5)図書館・文書館などにおける旧御師関係資料の確認と収集。 (1)については、主として文書資料を対象に約1300点のカード化を進め、今後の内容分析のために一部資料の写真撮影と整理を行った。(2)は、多種類にわたる資料のうち、近代以降における岩井田家と旧檀家地域との関係を明らかにする資料数点の内容把握に努め、現地調査のための準備を進めた。(3)は二度にわたる現地の予備調査(埼玉県加須市・久喜市・熊谷市)により、旧檀家地域において現在も関係の資料が残存していることを確認し、旧伊勢講の世話人宅などを探し当てることに力を注ぎ、併せて当該地域の図書館・文書館・郷土資料館等における関係資料の収集を行った。 (4)は、先行研究の把握に努めたが、山田・宇治を合わせて800軒余の御師の変遷をたどる本格的な研究はなされていないことを確認し、現在一部の御師を対象に進められている調査情報の収集と情報交換を主とした。また仙台・石巻両市を中心に東北地方における御師の活動資料、伊勢信仰の現在状況の把握に努め、今後の研究に備えた。(5)は、神宮文庫(伊勢市)を中心に、近世以前の岩井田家文書の調査・収集を進めた。なお、当該年度の研究成果は個別に原稿をまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、文献調査と整理、資料収集、現地調査、情報交換のための勉強会の実施が主な研究活動であり、おおむね計画通りに進めることができた。特に、(1)研究の基礎作業となる岩井田家の未公開資料の調査と目録化に向けてのカード作成、(2)岩井田家に届いた伊勢参宮や神宮大麻の授受にかかる書簡・関係文書からたどれる旧檀家地域の情報把握と資料収集は、積極的に進めることができた。(1)については、資料所蔵者の好意により、自宅での調査を月一度のペースで実施したが、未調査資料が3000点程度と予想され未確認資料が随時提示されるところから、当該年度の調査点数はその半数弱に留まり、これからも調査を継続し基礎作業を早く終了することが必要である。しかしながら、古文書の取り扱いには細心の注意が必要であり、また個人所蔵文書を所蔵者宅で調査するという制約から、早期の作業終了には困難さが伴っている。 (2)は、伊勢講が近年まで続けられていたにも関わらず、地域の変容や世代交代により、その記憶さえ失われている地域もあった。そこで、岩井田家の旧檀那地域の神社における、近代以降の伊勢神宮参拝記念碑・絵馬の確認などより手がかりを得ること、更に神社や地域の集会所保管の文書資料の情報把握に努めたところ、いくつかの地域より重要な情報を得ることができ、次年度に研究展開を図ることとなった。しかしながら、こうした調査は地元との信頼関係に基づく必要があり、特定地域のインテンシブな調査とならざるを得ず、全体把握の方策については課題を残すところとなった。 伊勢市(宇治・山田)における旧御師の廃絶とその後の状況についての概要把握は、個別の先行研究の状況はある程度把握できたが、それらだけでは800軒以上あったとされる旧御師の動向の全体像を把握することができず、この点は今後どのように研究を進めるか検討課題として浮かび上がってきている。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画にほぼ従って研究活動の推進を予定している。その柱は次の4点である。 (1)岩井田家の未公開資料の調査と目録化に向けてのカード作成、整理及び電子化のための入力を継続する。本件については、月一度平均での調査を予定している。ただし、所蔵者の状況を鑑み、ご自宅での調査回数の削減と調査時間の短縮を図るため、資料の一時貸借を依頼し、できるだけ効率よく調査が出来るように環境を整えたい。新たな資料調査場所として、皇學館大学内の施設を利用することを考えている。 (2)旧檀家地域における岩井田家との関係を示す資料発掘と内容調査の継続。昨年度と同様にチームを組み複数での聞き取り調査及び役割分担による資料調査という手法で効果的に対応したい。資料の閲覧などは対象地域の事情や個人の状況に依存せざるをえないところがあるが、事前に十分な連絡を取り、調査実施の成果をあげる計画である。これについては年間2度程度の調査機会を予定している。 (3)神宮文庫(伊勢市)及び三重県庁所蔵の旧御師関係資料の調査の継続。(4)資料の写真撮影の継続と内容分析の着手。(3)については、研究協力者の力を得て本年度内に必要な情報の把握を終了できるように進めたい。 以上のうち、(1)(4)については、作業効率を高める上で、一部アルバイト作業を導入することを検討したい。また、伊勢市における資料調査に合わせて研究者相互の情報交換と勉強会を実施する。更に研究成果報告の機会として、平成24年12月に開催される神道宗教学会学術大会でパネル発表を予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究経費の多くを占めるのは、調査にかかる旅費である。その内訳は、岩井田家(伊勢市)における所蔵文書調査と写真撮影、および旧檀家地での現地調査(埼玉県)、および研究成果の中間発表を予定している学会への参加などにかかる経費にあてる計画である。特に、連携研究者・研究協力者の活動による推進を図っており、居住地との関係から旅費の比重が高くなる。 また、文書資料の目録作成を早期に完成させるために、文書調査カードの整理とデジタル化の作業を進める上でのアルバイト採用による謝金支出も見ておきたい。 岩井田家資料のデジタル写真撮影は、研究の進行を早める上で必要であり、また当該研究の成果の一環として予定している未公開資料の公開という問題との関連で、写真撮影にかかる物品の準備も行う予定である。 以上の計画により次年度に研究の推進をはかり、3年目においては、補足調査および成果物の公表にかかる経費などを残しておきたい。
|