最終年度にあたって、前年度までの研究を踏まえ、以下の研究を行った。 ①チベット医学のオイル・マッサージ(クニェ)において使われるツボについて、チベット医からの聞き取りおよび、17世紀以降の医学テキストの分析を行った。その結果、根本となる『四部医典』とは異なるツボがかなり多く存在することが明らかになった。これは、従来まったく理解されていなかった点であり、大きな収穫だといえる。また、オイル・マッサージ以外の外的治療法について、参与観察を行うとともに、ストレス緩和、鎮痛としての役割を確認した。これは、社会に研究の内容を還元する上で、たいへん重要な発見だといえる。②チベットに伝承されるヤントラヨーガについて、18世紀以降に実践されるようになったヤントラヨーガについて現地調査を行った。その結果、8世紀の「太陽と月の和合」とはきわめて異なることが明らかになった。これは従来まったく理解されていなかった点であり、世界的に見ても重要な発見である。③中国医学と道教の修行について、チベットとの比較のために、現地調査および文献研究を行った。特に「導引」について、運動としては「太陽と月の和合」とも共通のものがあるが、「気」の運用は臓器と経絡を中心に観念されており、医学理論との関係がより密接であることがが明らかになった。この点は、今後発展すべき重要な論点だと言える。④(i)「太陽と月の和合」のヤントラヨーガ、(ii)チベット仏教、医学の身体=生命イメージと現代の脳科学理論の共通点と相違点、(iii)チベットの生命論と女性性の関係、(iv)ヤントラヨーガと密接な関係を持つ密教舞踏、(v)チベットの生命論が現代世界において持つ意味について、計5本の論文を発表した。また学会発表を行った。 全体を通じて、「チベットの生命論」をその医学、仏教の理論と実践の両面から明らかにするという目的を十分に達成することができたと考える。
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