研究課題/領域番号 |
23520095
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 弘夫 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125570)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 石塔 / 金石文 / コスモロジー / 幽霊 / 死生観 |
研究概要 |
現存する中世の石塔のデータを網羅的に収集すると同時に、その銘文に関するデータベースの作成を進めた。また石塔に関連する資料とその分析に必要な参考文献・図書・報告書を収集した。東北・関東・長野・岐阜・京都などで実地調査を行い、主要な石塔群のデータを収集するとともに、それを写真撮影して記録した。また、そこで収集した資料を整理し、データベース化した。調査にあたっては、石塔に加え、聖地を構成する経塚、木像・絵像、文献史料などを博捜して当該フィールドの宗教空間をトータルかつ立体的に解明し、歴史的・思想的なコンテクストに位置づけることを目指した。 他方では、従来なされてこなかったようなスケールの研究史整理を行うべく、石塔・金石文についてのこれまでの研究文献を、国内外の諸分野を横断する形で網羅的に収集し、あわせて多くの研究者と積極的な意見と情報の交換を行い、方法論の面での錬磨を試みた。 以上の資料収集と基礎研究を踏まえ、本年度は収集した石塔のデータについて、その分析と背景にあるコスモロジー及び死生観の解明を開始した。その結果、石塔の変遷を通じて、中世から近世・近代に至る宗教世界の構造の変化を、大筋において明らかにすることができた。また、その成果を著書・論文として刊行した。 とくに、世俗化が進むとされる近世社会において、幽霊譚と怪談が盛行する原因と、中世のそれとの質的な相違について、独自の仮説を構築するに至った。その成果を、国内(日本宗教学会)・国外(カリフォルニア大学)において発表し、有益な議論を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、(1)日本の中世に焦点を絞り、大量に残存する五輪塔・板碑などの石塔群を素材として取り上げ、その配置状況や銘文の分析を通じて当時の人々が共有するコスモロジーと死生観を解明し、古代・近世と比較しつつ、その独自性を明らかにすること、(2)以上の考察から明らかにされた中世固有の時代思潮を背景に置くことによって、従来の思想史研究の大半を占めていた、いわゆる鎌倉仏教、神道思想、本覚思想といった体系的思想に、新たな角度から意義と意味を見出すことを目指すこと、(3)本研究を日本中世という特定領域の研究にとどめることなく、石塔などの非文字資料や金石文などの体系化されないテキストを用いていかに時代思潮を再構成していくかという、思想史一般の方法論の問題として深化させ、その成果を国内外に発信すること、の3点を基本目的とするものである。本年度は、主として基礎史料の収集に務めるとともに、(1)に焦点を合わせた考察を行った。 基礎資料の収集とデータベース化に関しては、「研究実績の概要』にも記した通り、震災の影響にも関わらず順調に進めることができた。またそれを踏まえた成果発表に関しても、著書1、論文5、国際学会での発表4、国内学会での発表2と、実りある成果を上げることができた。 特に石塔を素材とする「幽霊」研究では、コスモロジーとの関わりで、従来の研究にはなかった新しい視角を切り開くことができたと考えており、次年度以降の更なる発展を期している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は全体として順調に進展しており、次年度も予定したスケジュールを上回るペースで、密度の濃い研究を継続していきたいと考えている。本年度の研究成果を踏まえ、次年度はさらに数多くの成果を発表できる見込みである。 本年度使用しなかった研究費が次年度回しになっているが、これは東日本大震災によって研究のスタートが遅れたもとによるものであり、研究そのものが停滞していることを意味するものではない。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの経過をふまえ、計画書に記した当初の予定通り、研究計画を進めることができる見込みである。本年度、予想以上の成果があったことから、次年度は基礎資料の収集に加えて、研究成果のより積極的な公開と、それを踏まえた他の研究者との議論を重視するつもりである。 そのため、次年度に使用する予定の研究費は国内外での成果発表に重点的に充てていくことを考えている。
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