研究課題/領域番号 |
23520096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 和之 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00293118)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 分析 / 想定 / 分割 / ユークリッド / アリストテレス / ヴィエト / デカルト / ラカン |
研究概要 |
「分析 analysis」概念の二極の成立の経緯に関する研究を、以下の三つの軸に沿って行った。(1)古代ギリシャの幾何学と論理学およびその注釈における「分析」概念:幾何学と論理学において、それぞれ「想定」と「分割」を核に「分析」概念が形成されたという仮説を、主としてユークリッドおよびアリストテレスのテクストの注釈に基づいて検討した。幾何学の証明論の文脈で、証明すべき未知の事柄を既知と「想定」した場合に出てくる諸帰結のうちに証明の手がかりを探る手続きが「分析」と呼ばれていたことがはっきりと確認できた反面、論理学で「分析」と呼ばれている操作については「分割」の契機とともに「想定」の契機も認められるという知見をえた。(2)フランソワ・ヴィエトにおける「分析」のアイデンティティ・ポリティクス:ヴィエトが代数的な手法を「分析」と呼ぶにあたって、この手法の学問的な地位を高める意図があったことが資料的に確認できたが、こうした認識が当時どの程度共有されていたかについて更に調査が必要と思われる。(3)数学における「分析」概念と「分割」の新しい次元-デカルトを中心に:デカルトの「方法」概念と、その形成にあたって参照された数学における「分析」概念の関係について検討し、単に要素への還元にとどまらない、「未知」と「既知」の分割という「分割」の新たな次元があらわれる具体的なプロセスについて、一定のアイディアを得ることが出来た。 このほか9月末から10月初めにかけて二週間程度行ったフランス国立図書館での調査で、上記問題に関する資料の他19世紀フランス精神医学における「分析」概念に関連する資料の調査・収集を行った。また「分析」が人間の実存そのものを記述する概念として用いられうる事例としてジャック・ラカンの精神分析を取り上げ、これがその実存の「変容」の可能性をどのように規定しているかを論じた発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においては、研究計画書に示した三つの論点について、基本的には設定していた作業仮説を確認し補強する知見を積み重ねることが出来た。その過程では、仮説に一定の見直しを迫る知見やさらなる調査や考察の必要を示唆する知見も得られたが、これらはいずれも研究の過程で生ずる問題の深化と進展を示すものと言え、精神分析における「分析革命」の内実を明らかにするにあたってまず西洋思想史における「分析」概念の展開の大きな枠組みを呈示しようとした本年度の研究のなかで、そのより精緻な分節化の道を開いたものであるという点で、むしろ研究の達成を示す成果の一つとして評価することができる。 本年度の研究ではまた、もともと平成25年度に予定していたテーマ―具体的には19世紀フランス精神医学における「分析」概念と、ジャック・ラカンの精神分析における「分析」と「実存」の密接な関係について、前倒し的に作業をおこない、また成果を上げることが出来た。そもそも本年度は、想定されている作業の量が相対的に少ないことに鑑みて、できる限り平成24年度の研究を前倒し的に着手するようにすることを予定していたが、この平成24年度の研究の先取りについては、着手はしたものの、具体的な成果を挙げるにはいたらなかった。しかしその代わりに、平成25年度分の研究の一部について具体的な進展がみられたことから、全体として当初に予定されていた研究について、順調に進展していると評価することできる。
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画に基づき、「分析」概念の二極の成立についての前年度の研究成果を踏まえつつ、「分割」としての分析という概念規定の優位の確立の過程について調査し考察を加える。 具体的には、17世紀から19世紀にかけてのフランス思想における「分析」概念の展開を、ポール・ロワイヤル論理学、コンディヤック、観念学派を取り上げながら辿ってゆく。またそれとの関連において、ライプニッツにおける「分析」の概念についても検討する。さらに哲学における「分割」としての分析という概念規定の成立にあたって大きく貢献したイギリス経験論の哲学者たちや、「分析論」の構想を展開する中で「所与性」を問題化するにいたったカントの哲学についても考察する。また「分析」のアイデンティティ・ポリティクスの事例研究として、18世紀後半のドイツ数学界における「分析/総合」論争および19世紀イギリスの「アナリティカル・ソサエティ」およびその周辺の人物について調査するほか、19世紀フランスの数学における「解析革命」およびその雛形となる「化学革命」における「分析」の位置についても調査を行う。 このほか前年度の研究で浮上した新たな論点として、「分割」としての「分析」という考え方が広まるにあたり近代初頭の自然科学における議論が果たした役割について調査し考察する。またアリストテレス論理学、とりわけその「分析論」の伝統の中で「分割」と「想定」の二契機がどのように関係しているかを、デカルトの「方法」概念の形成と関連づけながら考察すること、さらにヴィエトに見られるような「分析」観が同時代の論者にどの程度共有されているかどうかについて調査することが課題として残っており、これらについても取り組みたい。但し本年度のテーマは、申請者における蓄積が最も少なく、また広範囲にわたる調査が必要になるため、進捗が遅れる場合には25年度に一部をまわす可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費については、申請者がこれまで対象としていた対象範囲を超えておこなう学際的な研究という性格から、西欧思想史関連の図書を比較的多く購入する。(一冊5千円x年間30冊程度)。消耗品費については、ソフトウェア、事務用品、資料の購入等のために消耗品費を計上する。(50千円) また旅費関連では、国内旅費として、国内調査や成果発表にかかる旅費を計上する一方(50千円)、イギリス・フランスにおける計一ヶ月程度の文献調査(フランス国立図書館、パリ第四大学図書館、高等師範学校図書館、ケンブリッジ大学図書館)を予定しているため、外国旅費として、海外調査にかかる費用を計上する。校務等のため長期間の滞在が難しいことが見込まれることから、二回に分けて行うことを考える(700千円)。 このほか謝金等として、欧文で発表予定の論文の校閲料金を計上する(100千円)。さらにその他として、資料の複写のため印刷・複写費(30千円)、研究成果発表費用(20千円)を計上する。
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