研究課題/領域番号 |
23520096
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 和之 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00293118)
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キーワード | 分析 / 分割 / 想定 / デカルト / バベージ / 分析協会 / コンディヤック / ポー |
研究概要 |
研究計画に基づき(a)デカルト以降の哲学思想における「分析」概念の展開、(b)「分析」のアイデンティティ・ポリティクスに関する事例研究、(c)近代「分析」概念の準拠学についての調査、の三つの軸に沿って研究を行った。 (a)については、17世紀以降のフランス思想における「分析」概念の展開に関する資料の調査のためフランス国立図書館に赴き、とりわけ18世紀フランスにおける哲学ならびに文学の分野における「分析」概念に関連する文献の収集について一定の成果があった。ただポール・ロワイヤル論理学、コンディヤック、観念学派における「分析」概念についてはさらに継続して調査する必要があるほか、ライプニッツにおける「分析」の概念についての調査、イギリス経験論の哲学者たちについての調査は来年度に持ち越した。また「分析論」の構想を展開する中で「所与性」を問題化するにいたったカントの哲学の検討に着手した。このほか19世紀の「分析」概念を論ずるにあたって戦略的地点となる文学者、エドガー・ポーにおける「分析」概念についていくつかの研究をもとに考察を加えた。 (b)については、大英図書館において、19世紀初めに大陸の解析学の導入を目的としてケンブリッジ大学で短期間結成された団体「分析協会 The Analytical Society」について調査を行い、設立の具体的な経緯や背景となる当時の大学制度および大学教育のあり方、当時の数学における「分析的数学」と「総合的数学」の対立についての資料を収集することができた。また上述の団体の中心人物となるチャールズ・バベージの草稿『分析の哲学』も参照・検討した。 (c)については、上述のフランス国立図書館での調査中に、19世紀フランスの数学における「解析革命」およびその雛形となる「化学革命」における「分析」の位置についての資料調査も行ったが、こちらも継続が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度はもともと、夏期休業期間中に一ヶ月程度の調査旅行をおこない、イギリス、フランスでの文献調査を行う予定であったが、年度初めにすでに複数の役職の用務が夏期休業期間中にはいることが見込まれ、調査期間をまとめて一ヶ月間を確保することが難しいことが予想されていたため、これを二度に分けて行うことを想定していた。ただ実際にはその想定を上回る繁忙のため、夏期休業期間中の海外渡航がかなわず、最終的に四分の一の期間に切り詰めた調査旅行を三月に設定することを余儀なくされた。調査までの期間に国内で入手可能な資料によって進められる部分はできるかぎり進めたが、調査で研究を大きく進める材料が手に入ったのが年度末になり、また調査自体も短期間であったため、十分とは言いがたい状況があったことが、遅れの主たる理由である。ただ今年まったくの新規に着手したイギリスでの調査では、とりかかりとしては十分な材料が入手できたほか、ポーに関しては予想外の進展も見られたことから、手元の材料について効率的に検討を進めることで、今年度に予定していた研究の進度には十分追いつくことが可能と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究項目のうち、継続が必要なもの(ポール・ロワイヤル論理学、コンディヤック、観念学派における「分析」概念、ライプニッツにおける「分析」の概念についての調査、イギリス経験論の哲学者たちについての調査、カントの「分析論」についての検討)については引き続き研究をおこないつつ、平成25年度に予定されていた研究をすすめる。具体的には、「想定」としての分析の回帰として精神分析を思想史の中に位置づけることをめざし、「回帰」の前提となる、分析対象の「分析化」の事例として、19世紀医学における「分析」の概念について調査・検討するほか、精神分析における「分析」という操作の規定と、それが標榜する「科学」性の関係について考察し、最終的に20世紀フランスの精神分析を事例として、精神分析の教育とその体系化、及びそこから生じた新しい問題について検討した上で、これをもう一つの「分析革命」として位置づける。なお、平成24年度に校務の繁忙のため行うことができなかった調査と学会参加をふくめ、全体として二ヶ月程度のフランス等への海外渡航を二度に分けて行う。また、研究成果の出版に向けた準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費については、必要な範囲で西欧思想史関連資料を購入する(250千円)。またソフトウェア、事務用品、資料の購入等のために消耗品費を計上する(50千円)。 旅費関連では、国内旅費として、国内調査や成果発表にかかる旅費を計上する一方、国外旅費としては、もともと平成25年に予定していた1ヶ月の文献調査に、平成24年度に校務のため実施できなかった調査の部分三週間程度およびオランダ・ニメーグ大学で予定している研究発表を含めた合計二ヶ月程度の渡航費用を計上する。なお校務等のため長期間の滞在が難しいことが見込まれることから、二回に分けて行うことを考える(900千円)。 このほか謝金等として、欧文で発表予定の論文の校閲料金を計上する(100千円)。さらにその他として、資料の複写のため印刷・複写費(30千円)、研究成果発表費用(20千円)を計上する。
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