前年度から継続のポールロワイヤル論理学、コンディヤックおよび観念学派、イギリス経験論、ライプニッツにおける「分析」概念についての調査・検討に加え、もともと平成25年度に予定していた(a)フランス19世紀医学の「分析」概念についての調査・検討、(b)精神分析における「分析」という操作の規定と、それが標榜する「科学」性の関係についての考察(c)20世紀フランスにおける精神分析の教育と、それが要請した理論的精緻化についての考察を行った。 平成25年度中に実施したフランス国立図書館での調査では、継続課題に関連する17・18世紀フランスの文献の収集で成果があったほか、上記(a)についてはピネルを中心に前後の世代の医師の著作および同時代の雑誌などを含めて広く資料の収集を行った。また(c)に関する考察を踏まえ、国際精神分析・哲学学会で指定討論を行った。さらに(b)に関してフロイトの初期から中期にかけての著作を検討し、その「分析」概念の理解の中心が大きく「遡行」から「分割」に移行しているように見えること、ただそれが実際には、彼が「分析」とよぶ一連の操作の二局面を捉えようとするものであること、そしてそこにはエウクレイデス幾何学およびアリストテレス論理学の検討を通じて指摘することのできた「分析」概念の三契機「想定」「遡行」「分割」が回復され、独特の概念的布置を構成していることを示した。 三年間の研究を通じて、精神分析の登場を「分析」の概念史に重要な一段階を画するものとして位置づけるという主要な研究目標については、ラカンにおける「想定」を軸とした「分析」概念に関する考察をさらに深めたほか、フロイトの「分析」概念についても「分割」に縮減された近代的「分析」概念にない特徴を指摘することができ、明確な成果をあげることができた。17世紀以降の「分析」の概念史をより稠密に再構成することが今後の課題である。
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