研究課題/領域番号 |
23520098
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
上村 直樹 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (40535324)
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研究分担者 |
佐藤 真基子 慶應義塾大学, 文学部, その他 (30572078)
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キーワード | アウグスティヌス / 教父 / キリスト教 / 聖書解釈 / パウロ / 真理論 / 人間論 / 国際研究者交流 |
研究概要 |
研究第二年度において両研究者は、研究計画にあげた課題1「アウグスティヌスが、「創世記」とパウロ書簡をどのように解釈したのか」と、課題2「『嘘について』に前後するアウグスティヌスの言語理論が、どのように変化したか(あるいは変化しなかったか)」の検討をつづけ、その成果を国内外の学会において発表するとともに、課題3「人間論はいかに展開したか(展開しなかったか)」の考察に着手した。 研究代表者・上村は、2012年5月カナダの教父学会において、パウロ書簡についてのアウグスティヌス初期、中期の解釈を分析した成果を発表した。そして、『告白』に先行する段階で、アウグスティヌスの人間論が古典的、目的論的な人間の完成への階梯論から移行し、恩恵の神的な介入をみとめる救済史的、歴史神学的な枠組みに包摂されつつあることを明らかにした。さらに、7月韓国の「アジア環太平洋初期キリスト教学会」では、『告白』の回心の場面に現れるパウロ書簡解釈の意義を、先行する著作群のなかに検証する発表を行なった。あわせて、本研究を紹介するウェブサイトを構築し、研究状況について周知する枠組みを設定した。 研究分担者・佐藤はまず、万物の生成原理としての「言葉」理解の変化を、初期、中期著作において分析し、アウグスティヌスが、「言葉による創造」というヨハネに由来する考えを、ギリシャ的な形相付与による創造として理解することから出発し、創造者の意図的な発話として捉えるにいたった経緯を見出した。そして、『告白』における「創世記」解釈の枠組みに関わるこの成果を、7月韓国の「アジア環太平洋初期キリスト教学会」において発表した。さらに、『「ガラテヤの信徒への手紙」注解』の分析に着手し、パウロの言葉と「真理」概念の関係に着目し、アウグスティヌスのこれ以降の聖書解釈論に反映する「真理」概念が、この関係によって確立したことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によって、当初の研究計画において設定していた課題、アウグスティヌスの「創世記」解釈とパウロ書簡解釈の実態を明らかにすること、また、それぞれの解釈を支えるアウグスティヌスの思考の過程を、テキストに基づいて具体的に明らかにすることによって、人間論、言語理論との関係を解明すること、この二つの課題について順調に進展することができた。そして、その成果を国内外の学会、雑誌において発表するとともに、ウェブサイトを通して周知する枠組みの制作を完了し、最終年度に公刊する予定の研究成果報告書に向けて、その準備に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果によって、アウグスティヌスがパウロ書簡註解に注力することを通して、その「真理」概念を変化させつつあること、かつ、人間論を展開していること、「創世記」解釈に注力することを通して、独自の言語論を形成しつつあること、これら一連の過程が解明されている。そこで、さらに問われるべきは、アウグスティヌスの「真理」理解とキリスト論との、また、創造論、人間論との関係である。 研究最終年度においては、さらにパウロ註解、創世記註解について、これまでの研究では扱わなかったテキスト分析を重ねることによって、アウグスティヌス固有の、これら「真理」理解、創造論、人間論がいかに形成されていったのか、その分析を進め、北米教父学会、カナダ教父学会、オーストラリアでの研究集会において発表、意見交換を行なうとともに、研究報告書を公刊する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は、海外研究協力者に旅費を支出する予定を、別途、学会招請組織(韓国教父学会)から支給されることによって変更し、当該旅費の支出をキャンセルした。研究分担者は、コンピュータ故障のため本体機器を購入することが必要となり、PCソフトウェア、ならびに消耗性図書の購入計画をキャンセルし、次年度の研究計画とあわせて使用することとなった。次年度において、代表者・分担者は、未使用となった金額を、研究の進捗にしたがってあらたに必要となる消耗性図書購入、ならびにソフトウェア購入に追加して使用する計画である。
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