本研究では、十八世紀フランスの『百科全書』の科学項目における複数の言説の競合関係に注目し、一見客観的な科学の歴史の成立に与える説得的な言説の役割の解明を目指した。その結果、数学者ダランベールによる項目を筆頭とする複数の項目で、チェンバース百科辞典や先行著作からの大量の引用に依拠しつつ、新旧の科学的見解の比較考量が行われ、啓蒙のイデオロギーを反映したパラダイム転換の歴史叙述が行われていること、編者のディドロとダランベールがそれぞれ技芸と科学の領域で科学・技術の自由な発展を理想とする進歩の哲学を説き、『百科全書』の一般読者層の拡大に人類の知的進歩を託したことが明らかになった。
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