研究課題/領域番号 |
23520107
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
葛西 弘隆 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (70328037)
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キーワード | 戦後思想 / 文化 / 国際情報交換 アメリカ |
研究概要 |
本年度は、とくに1960年代以後の花森の問題意識の変容を中心に、彼の民主主義観について分析することを主要な課題とした。 1960年代末から70年代前半にかけての花森と『暮しの手帖』の編集方針の変化に焦点をあてて分析を進めた結果、次の論点が明らかにされた。1、花森は高度経済成長がもたらした社会の歪みに厳しい批判的態度を明らかにしたが、その認識は戦時期の経験からくる洞察と結びついていたこと。2、その認識が従来の『暮しの手帖』の編集方針から転換して、社会問題を直接的にとりあげるように変化し、戦時中の経験を記録する作業(『暮しの手帖』第96号)へと向かわせた大きな要因になったこと。3、市民の日常生活にかかわる当時の社会問題(食品添加物、公害など)をつうじて、花森が現代資本主義と国家体制に深い憂慮を明らかにしたこと。4、そのなかで『暮し」を自らの手で守る市民の日常的な活動に民主主義の可能性をみていたこと(『一銭五厘の旗』)。これらの論点は講演(「知識と民主主義──花森安治と『暮しの手帖』の文化政治」)において報告し、討論では有意義な指摘を受けた。 資料面にかんしては、花森生誕100周年を記念する展覧会がいくつか開催された。展示資料をつうじて貴重な情報を得るとともに、入手困難だった文献を収集することができた。 また、以下のふたつの論考を翻訳し、グローバルに展開する日本思想史研究の最先端の論点を日本の学界に紹介した。ギャヴィン・ウォーカー「現代資本主義における『民族問題』の回帰──ポストコロニアル研究の新たな政治的動向」(『思想』2012年7月号、岩波書店)、テッサ・モーリス=スズキ「平凡社ライブラリー版へのあとがき」、テッサ・モーリス=スズキ『批判的想像力のために』平凡社ライブラリー版(平凡社、2013年)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第2年度の大きな目標であった花森晩年の思想と『暮しの手帖』の編集方針の変化の関連について重要な知見を得ることができた。また、初年度には入手困難だったいくつかの基礎資料(原著)を入手することができ、資料面では必要なテクストがほぼ揃ったことも、今後の分析に役立つものである。現在、テクストの詳細な検討を進めており、2013年度の作業のなかでより詳細に検討していくとともに、花森安治論として公刊できるよう、出版社との打ち合わせを開始した。 思想史研究全般への貢献という点では、以前から交流のあるコーネル大学の日本研究者との研究会や会合をつうじて、新たな戦後思想史研究の可能性と人的ネットワークを構築するための重要な基盤が構築 できた。また、コーネル大学およびオーストラリア国立大学の日本研究者の論考の翻訳をつうじて、世界規模で進展する現在の日本思想史研究の紹介につとめた。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度には本務校の海外研修制度を利用して、アメリカ合衆国のコーネル大学東アジア研究所において研究活動を行うため、本研究課題に集中的に取り組む環境が得られた。昨年度までの成果をもとにテクストの詳細な検討をつづけ、論考として発表することを2013年度の主要な課題とする。それをもとに、花森安治論として公刊する準備を進める。現在、出版社と打ち合わせを開始したところである。 また、コーネル大学をはじめ北米のアジア研究者との交流や国際的な学会・研究会等への参加をつうじて、本研究の論点をさらに深める機会をできるだけ多くもつことを予定している。それにより、花森の思想史的読解を、より大きな戦後思想史の読み直しの理論的文脈のなかに位置づけることを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
入手困難のためまだ入手できていない『暮しの手帖』関連のいくつかの資料の収集をひきつづき行う。また、今年度はアメリカ合衆国をベースに研究活動を行い、また本研究の成果をまとめる段階に入るため、各地の学会・研究会等への参加に要する出張旅費が必要となる。
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