2014年度までは、戦争体験、国家観、ジェンダー観、民主主義観をもとにした花森安治の「暮し」概念の特徴を、時代ごとの彼の思想の特徴や『暮しの手帖』の変化について分析した。その成果をもとに、2015年度には、日常生活におけるポリティクスに着眼することで独自の民主主義思想を展開した花森安治の思想が、国際関係をふくむ現代日本社会の批判的理解に与える示唆、すなわち花森思想の現代的意義を中心に検討し、以下の機会に発表、報告した。 5月にはアメリカ合衆国カリフォルニア大学ロサンゼルス校で私も組織者のひとりとして参加したTrans-Pacificシンポジウムにおいて、"The Future of Futurity"と題する報告を行い、3.11以後の現代日本社会と思想文化の問題を花森安治の問題意識の延長上に検討できることを問題提起した。また、論文「ポスト3.11の丸山眞男」においては、戦後日本の代表的な政治学者・思想家である丸山眞男の広島における原爆体験が、1950年以降の彼の平和論(とくに講和問題)に与えたインパクトについて考察し、ほぼ同世代でありながら、政治的には異なる志向をもつと解されがちな花森安治の民主主義思想との共通性を明らかにした。さらに、12月には、東京外国語大学で開催された文化と記憶の問題をめぐる国際会議においで"Culture in Negotiation"を報告し、近年の北米の日本研究の動向を紹介しつつ、現代日本思想・文化研究の課題と新たな可能性について議論した。 以上の成果をもとに、本研究課題全体の成果となる単著(『花森安治と文化の政治学』仮題)を今年度中に刊行すべく作業を進めている。
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