研究課題
フィデンツァ大聖堂は、フランシスコ会の修道院聖堂ではないにもかかわらず、アプシス壁面にアッシジの聖フランチェスコの像が描かれている点で注目に値する。この聖人は、同じくアプシス壁面の中央に置かれる「最後の審判」に立ち会っている。「最後の審判」の図像は、聖堂の入口裏壁面に描かれるのが普通であるが、フィデンツァではアプシスに配置されていることからも特異な作例といえる。これら一連の絵画は、これまで研究者によって言及されることが少なく、制作年代についても漠然と1280年頃のものとされてきた。しかしながら他のフィデンツァ周辺の地域(エミリア地方)の絵画と様式的な比較をすることにより、また当時のフィデンツァの政治的状況から1260年前後に位置づけられる。この年代は、フランシスコ会内部の正統派の教義とヨアキム主義的な思想との対立を反映すると考えられる聖フランチェスコ像が描き込まれる時期としてもふさわしい。なぜなら、ヨアキム主義者でフィデンツァ出身のフランシスコ会士、ゲラルド・ダ・ボルゴ・サン・ドンニーノがその異端的な著作により弾劾され放逐されるのがまさにこの頃なのである。フィデンツァにはもう一点、フランシスコ会とかかわる図像が残されている。もともと大聖堂のクリプタのそばに描かれたフランシスコ会士を伴う船の難破の場面である。14世紀初めに描かれたと考えられるこの作品を手がかりに、宣教を使命とした同修道会の中国にまでおよぶ活動と美術作品とのかかわりを考察した。とくに海がいかに表象されたかに注目し、経験する世界が格段に拡張しながらも、絵画表現への影響はやや限定的なものにとどまることを明らかにした。
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B. Mulvaney & B. R. Franco eds., The World of Saint Francis of Assisi, Siena: Betti Editrice
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Hortus Artium Medievalium
巻: 22 ページ: 印刷中
加藤磨珠枝編『教皇庁と美術』竹林舎所収
巻: 1 ページ: 315-333