研究課題/領域番号 |
23520117
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
外山 紀久子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (80253128)
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キーワード | 美学 / 身体文化論 / 舞踊論(ドイツ、アメリカ合衆国) / 芸能史 / 現代アート |
研究概要 |
平成24年度は「生の技術」として機能しうるネオ・プレ・モダニスト的芸術実践が空間経験にどのように作用しているのかについて、関連する事例を参照しながら考察するとともに、子ども/老人/病者といった近代の主体モデルから外される傾向にあったより周縁的/境界的な身体のあり方にアプローチするための方法を模索した。 日本学術会議との共催で開かれた芸術学関連学会連合第7回シンポジウム(2012/6/16、仙台市博物館)に参加し、大震災を契機として文化・芸術活動と特定地域との関係を問い直すテーマ=「地・人・芸術:<芸術と地域>を問う」を考える機会を得た。また、「老いと舞踊」をテーマとする国際シンポジウム(2012/6/28-6/30、ベルリン)で招待講演を行い、内外の研究者や実践家との研究交流のなかで日本の芸能と欧米のポストモダンダンスをつなぐ周縁化された身体の有する可能性について議論を深化することができた。8月にはカッセルの国際現代アート展(ドクメンタ)やそのアーカイヴに赴き、都市や郊外の屋内外の空間を場とした現代アートの具体的な試みについて調査した。 舞台や劇場という芸術舞踊に特化した場の外側に広がって日常生活の随所にまで拡大するポストモダンダンスとその後の展開、美術館やギャラリーを脱出した現代アートの一部の動向を平行して追跡し、それらの社会的意義を「主体の変容」ないし脱近代の系譜のなかに散見される「霊感論」復権という視点から捉える作業を継続して行った。 学会誌に23年度の舞踊学会大会当番校企画の報告を掲載し、学会ニューズレターに舞踊の反生権力的な可能性について論じた単文を寄稿した他、ベルリンのシンポジウムで行った講演を現地での出版に向けて原稿にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究者ネットワークの構築や研究テーマの洗い直しや方法論の更新という点では十分な進展があった。ただし、舞踊論関係の研究の進展やその成果発表の方向にやや重心が偏り、当初予定していたアグネス・マーティン関連の研究が滞っている。種々の業務の増加に加え、個人的事情(育児・介護補助等)で長期の海外調査(ワークショップ参加やアーカイヴ調査)が困難な状況にあったこと、必要となる作業が多岐にわたることが遅滞の主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
もともと(舞踊とアート、芸術と芸能、日常空間の問題等)既成のジャンルを横断するテーマ設定となっており、油断するとどんどん遠心力が働いて収拾がつかなくなる恐れがあるので、研究対象をさらに絞り込むと同時に、可能な範囲で極力アーカイヴ調査や滞在参加型調査の計画を取り込むようにする。 当初の計画のコア部分を守りつつ、研究の進捗状況に応じて各年度に行う作業の再配分を試み、最終的な目標達成に向けて随時軌道修正を行う必要があると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
芸術とそれ以外の空間調整の技法について特に「祈り」「鎮魂」「浄化」といった古来からの機能に焦点を合わせて考察を進めると同時に、身体感性論(somaesthetics)や「生存学」「死生学」と接する問題圏を模索する。関連するシュスターマンの翻訳プロジェクトに参加する。 ポーランドで開催される第19回国際美学会議で研究成果の一部を報告する他、国内の学会や講演会等での研究発表を行う。年度末から翌年度にかけて計画中の埼玉での国際シンポジウムの準備を継続する。タマルパ研究所所属の舞踊家による日本でのワークショップ(「Planetary Dance」)の計画を進める。 前年度に行うことのできなかったアメリカ合衆国でのミュージアム&アーカイヴ調査に着手する。
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