研究実績の概要 |
研究の目的は、18世紀フランスの画家ジャン=アントワーヌ・ヴァトー(Jean-Antoine Watteau,1684-1721)が創始した雅宴画について、度々描き込まれる裸婦彫刻に着目し、作品とともに、作品を取り巻く文化的・社会的コンテクストからの資料を用いて解釈を試みることである。 研究手法として、①ヴァトー自身に関するテクスト(油彩画・素描・文字資料)に関わるデータの再検討、②ヴァトーの描いた彫刻表現を取り巻く美術史・文化史・社会史の把握、③ピュグマリオン神話や古代彫刻、庭園や演劇を主題とした画像(油彩画・版画)のデータ収集・分析がある。 上記の目的・計画に従い、手法①を初年度から、手法②を次の平成24年度から、手法③を平成25年度から実施し、最終の平成26年度には、これらを統合的に扱った。 18世紀フランスの文化史・社会史や美術理論についての文献を精読し、ヴァトーの雅宴画を取り巻く文化的・社会的コンテクストの理解に努めた。また、フランスでの現地調査では、ルーヴル美術館やヴェルサイユ宮殿等での作品調査、ルーヴル美術館絵画資料室でのヴァトーや同時代の雅宴画家の作品に関する資料の調査、コメディー・フランセーズ図書館等でのピュグマリオン神話や当時の演劇を題材とした素描・版画の調査を行い、ヴァトーの裸婦彫刻モティーフの生成に関する視覚的資料を収集した。 さらに、ヴァトーに関する基礎的な一次資料の中でも最重要とされる、ヴァトーの友人で有数の美術愛好家であるケリュス伯が美術アカデミーで行った講演の草稿について、所蔵先のソルボンヌ大学附属図書館(パリ)にて調査した結果を論文として公刊した。これらの研究手法により、ヴァトーの雅宴画について、描かれた裸婦彫刻への意義と生成の過程を明らかにし、そこに18世紀の新しい文化的・社会的潮流が逸早く見出されることを提示した。
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