研究課題
本研究では、以下のような考察をめざした。①12世紀末から13世紀中期にかけての西欧における聖顔(ヴェロニカ)信仰の諸様相を詳細に跡づけ、その成立および展開の状況や過程を当時のイギリスで流通していた図像やテクストを通じて緻密に再構成する。②また、なぜイギリスで発展したのか、それがどのような意義を担っていたのか、当時の歴史的背景として終末論に関わる思想や、アングロ=サクソン以降の地域的伝統との関連で説明しようと試みる。③さらに、これらのヴェロニカのイメージが位置づけられる個人的祈念における宗教的実践の諸様態を明らかにする。これに対して、13世紀中期イギリスにおける聖顔信仰と11世紀の同地域におけるキリスト教正統の信仰表明との関連性に関して、とくに「栄光のキリスト」に関わる図像や思想に基づく考察を進めることができた。13世紀中期以降イギリスで制作された『ヨハネ黙示録』写本に関して、とくにヨハネによる「天に開かれた扉」を介しての幻視と、黙示録末尾におけるヨハネと神との対面に関連する主題の図像表現を中心に聖顔信仰の関連性について考察を進めた。J.-P. Migne, Patrologia latinaなど、キリスト教教父学関係のテクスト・データベースを用いて、11世紀から12世紀末に至る詩編註解に多数みられる「神の顔」に関する註解の収集・整理をまとめ、父の不可視性、父と子の相同性や派生関係、子の受肉、終末における神との「顔と顔を合わせて」の対面といったテーマを通じた聖顔信仰との関連性についての考察をさらに進めることができた。写本をプライヴェートな状況で前にした世俗の「読者=観者」という新しい受容者の登場、個人的祈念という文脈における詩編集・黙示録写本の使用様態とイメージとテクストの関係から聖顔信仰について考察を進めた。
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ユリイカ
巻: 46 ページ: 144-150
La Dame à la licorne et l’art européen autour de 1500 dans les collections du musée de Cluny, Paris, Tokyo: The National Art Center
巻: なし ページ: 167-169