(1)クロード・カーンClaude Cahn(とパートナーのムーアMarcel Moore)の生地ナントにおける文筆(とイラストレーター)活動について調査するとともに、ナント大学の視覚文化論担当P. Allain助教授とカーン研究に関する意見交換を行った。 (2)カーンらがパリ定住後に関わったいくつかの前衛劇活動について、フランス国立図書館(BNF)においてとくにエソテリック劇場に関連した資料のmicrofiche閲覧等により詳しく調査した。 (3)カーンの異性装、仮装、仮面等を用いたセルフポートレートについて、彼女が演劇活動に関わる以前と以後の特徴を分析し、また著書の各章冒頭を飾るフォトモンタージュの分析を行った。 (4)伝統的な自画像の系譜から男性画家と女性画家の身体的構え・表情・まなざしにおける特徴的差異を考察した上で、20世紀以降の女性アーティストによるセルフポートレートの「逸脱的な自己表象の試み」の諸相を分類した。この現代的傾向の先駆者としてカーンを位置づけることができた。 (5)2013年12月に神戸大学文学部で開催されたジェンダー研究会及び京都大学文学部で開催された日仏美術学会例会において、カーンの活動についての口頭発表を行った。また2014年3月発行の神戸大学芸術学研究室論集でカーンに関する論考を公表した。 3年間の研究期間を通して、カーン(とムーア)のナント時代のジャーナリズム活動、パリ時代の前衛劇への関心とシュルレアリスト達との交流、そしてジャージー島移住後の反ドイツ軍活動について関連のアーカイヴやBNFでの一次資料閲覧等により調査・研究を行い、このユダヤ系フランス女性の「セルフポートレート」を中心とした多領域に亙る独自な活動を統括的に把握することができた。さらに、その時代的・社会的コンテクストとの関係及びその現代的意義に関する研究を進める予定である。
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