平成25年度は研究事業の最終年度に当たるため、研究成果の発表を目標に定め、調査研究を行った。まず、前年度に引き続いて英字新聞に掲載された美術関連記事の収集を進め、データベースを随時更新した。対象としたのは1945年から1960年までであるが、収集作業に予想以上の時間がかかったため、すべては終了していない。ただし、これらのデータから、ジャパン・タイムズの美術批評家エリーゼ・グリリを中心とする戦後の在日欧米人ネットワークの実態が解明でき、彼らが同時代の日本美術に与えた評価がアメリカ本国の日本美術評価にまで繋がっていた可能性のあることが判明した。また一方、CIE図書館に関する資料発掘や調査によって、同図書館が戦後日本の美術界に果たした役割を明らかにすることができた。 これら研究代表者(桑原規子)、研究分担者(五十殿利治)がそれぞれ得た新知見を公開発表するため、平成25年10月20日には「戦後日本美術をめぐるシンポジウム」(筑波大学文京校舎)を開催した。同シンポジウムでは、味岡千晶氏(シドニー在住日本美術コンサルタント)、池上裕子氏(神戸大学)、長門佐季氏(神奈川県立近代美術館)を招聘して、戦後の日本美術に焦点を当てた発表を行って頂き、研究の枠組みの拡大を図った。シンポジウムで発表した内容は、桑原、五十殿とも論文として研究誌で公表した。 なお、平成26年3月に行った海外調査(ボストン、ニューヨーク、ワシントンDC)では、戦後日本に滞在した美術研究者エレン・コナント氏にインタヴューを行うとともに、ハーヴァード大学、コロンビア大学、ニューヨーク近代美術館等のアーカイブに保管されている戦後資料を調査し、貴重な情報を得ることができた。今後の研究でこれらの情報を活用し、新たな論文として発表する予定である。
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