研究課題/領域番号 |
23520131
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐々木 健一 日本大学, 文理学部, 教授 (80011328)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 現代美学 / 美 / メタファ / 象徴 / 趣味 / コミュニケーション |
研究概要 |
本年度は、新しい学問動向を踏まえて、既刊の『美学辞典』の記事の改訂を行った(美、文彩、象徴、趣味、コミュニケーションの5概念)。かつて藝術の本質と見られた美は、前衛運動のなかで否定され、最近になって関心が戻ってきている。その歴史的展開をダントーの近著からとりいれた。また、最近の論考としてスクルートンに注目し、特に人間の美しさ、性欲と美の関係に関する考察を摂取した(モラルの美が問題となり、人の美はその聖性と似た性格をもつ)。「文彩」は主題を「メタファ」中心に組み替えることにし、デイヴィッドソンの本義説(字義通りの陳述を行うことによって、AをBとして見る)と、思考過程がメタファによるとして、身体的なものを認識の基礎とみるレイコフ=ジョンソンの説を加筆した。さらに視覚的なレトリックとして、写真の場合の間テクスト性を重視する最新の理論を学んだ。「象徴」については、初期近代における時代的な文脈の解釈を書き込んだ。即ち、ライプニッツの哲学における個性を強調する「このもの性」、アルベルティ以来の藝術の有機体説、「エンブレム」概念、さらに「内面形相」の概念が加わって、美=象徴の考えが形成された。また、生物の感受と反応の間に、人間の場合にだけ象徴体系が介在するとするカッシーラーの思想をも参照した。「趣味」については2点を補った。まず、シブリーは美という価値のみならず、質感をとらえる特殊な能力として趣味を置いた。また、社会学者ブルデューは「好み」の意味でこれをとらえなおし、社会階層の差異の反映をそこに見た。「コミュニケーション」については、近世においてバトゥやカントが藝術の分類をする際に、コミュニケーションモデルによっていたこと(つまり藝術をコミュニケーションの相においてとらえていたこと)を補うとともに、マクルーハンの「メディアがメッセージ」という思想を、現代的な現象として書き込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標は、『美学辞典』の改訂とその第二部の執筆である。後者はすでに蓄積した分もあり、あと10ほどの新概念についての研究、執筆が必要となるが、これは準備を進めつつ、最後の二年に集中的に取り組む予定である。『美学辞典』は25概念を取り上げているが、すべてが改訂を必要とするわけではない。それが必要なものを考えると、本年度に行った研究は、ほぼ満足のいくものである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も既刊『美学辞典』の改訂を主として行う。1970年代以降、美学の研究は隆盛を見たので、大量の文献があり、しかも、新しい傾向を示している。それらの重要度をはかるためには、学会や研究者との個人的交流によって、生きた動向をつかむことも重要である。研究の具体的な進め方としては、文献を読んで、その内容を摂取してゆく、という地道なかたちしかない。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度と大きな違いはない。物品費と消耗品費の違いは、単価の違いによるものに過ぎない。また、人件費(謝金)の必要が増えたのは、資料の量(特にコピー類)が大きくなり、個人的には整理が行き届かなくなったためである。
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