研究課題/領域番号 |
23520133
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
瀧口 美香 明治大学, 商学部, 准教授 (80409490)
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キーワード | 舗床モザイク / 図像学 / キリスト教美術 / ロマネスク美術 / 西洋美術史 |
研究概要 |
本研究は、南イタリアのアプリア地方に位置する一港湾都市オトラントの、大聖堂舖床モザイク(1163-1165年)をテーマとして、図像解釈学の観点から個々のモティーフを検討するとともに、 舗床モザイク全体が体現するところの神学的メッセージを解読することを目的とする。聖堂の床面全体を覆うモザイクは、キリスト教図像とともに世俗的なモティーフ(天体、月歴、労働、 狩猟、楽隊、神話上の動物)を含んでいる。聖なる図像を足で踏むことになってしまうために舗 床モザイクにキリスト教的なモティーフを配することはまれである。オトラントにおいてもキリスト自身の像は表されず、身廊中央に十字架を示唆する大きな樹木が据えられ、枝葉の間に旧約の物語が配される。聖俗混在する図像群は謎に包まれた部分が多く、容易に解読しうるものではない。 本研究の目的は①南翼廊の図像をどう解釈するか、②大聖堂各部分がいかに統合され、連続性・一貫性ある全体をつくり出しているのかという2点を解明することによって、舗床モザイクの背後に横たわる中世キリスト教の死生観について知見を得ることである。 23年度は主に、図像解釈のための資料収集を行なった。舗床モザイクに見られる個々のモティーフを同定し、図像の源泉を探り、モティーフ同士の関連と配置の意味、大聖堂各部分のつながりを探った。続いて24年度は、南翼廊の人物同定、巻物解読、ダニエル書との関連、旧約図像と世俗モテ ィーフの組み合わせについて考察したが、問題が山積しているため、最終年度も引き続きこれを行なう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、コーエン、ダンバービン、ライスらによる、モザイクを図像解釈学の手法を検討した。さらに、彼らの手法を踏まえた上で、オトラント図像の源泉や系統を探るための、関連図像の収集と分類を行った。ロンドンのウォーバーグ研究所では、 通常の図書館分類法による分類ではなく、独自の分類法にしたがって書籍の配架が行われている。新約・旧約図像を細分化して項目を立て、分類がなされているために、特定の図像に関する研究を収集する際には、ウォーバーグ研究所図書館を活用した。同時に、モザイク技術の展開と伝播、図像の伝播についてより広い視野に基づいて考察を行うために、ビザンティン文化圏諸地域において、実地調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
南翼廊図像を解釈する際に、考慮すべき点は、北翼廊・アプシスとの整合性である。アプシスには黙示録註解の図像、北翼廊には最後の審判の図像がそれぞれ配置されている。そのため、南翼廊にもまた、終末論的思想を表す図像が配されていると筆者は考えている。南翼廊には、北翼廊と左右対称に描かれる樹木がある。聖書中において、樹木は時に象徴的な意味をになうものとして登場する。ここで注目したいのは、ダニエル書に描かれる大きな木である。ダニエル書の図像は、黙示録注解書の写本挿絵(いわゆるベアトス写本)に多く見られることから、こうした写本挿絵を検討することで、オトラント図像解読をすすめたい。 身廊のソロモンとセイレーンの組み合わせ、カインとアーサー王の組み合わせについては、聖書の登場人物と世俗文学の登場人物との接点に焦点を当てる。それによって、なぜ聖と俗が聖堂において並列に扱われるのか、それによって何を伝えようとしているのか、という点を明らかにする。 これまで個別に検討してきた大聖堂各部分のモザイク図像が、いかに一貫性ある全体を作り出しているのか、という点に注目するとともに、各部分の図像の源泉となった黙示録文学の検討を通して、当時のキリスト教的死生観に迫りたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
23-24年度に引き続き最終年度もまた、図像解釈のための資料収集を行なう。ビザンティン・モザイク研究については、現存作例に関する情報の網羅的なデータベース化など、近年めざましい研究成果が上げられている。今後は、こうしたデータベースに依拠しつつ、初期キリスト教時代の舗床モザイクまで広く視野におさめた上で、本研究課題のさらなる推進をはかりたい。
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