研究課題/領域番号 |
23520134
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
前田 富士男 中部大学, 人文学部, 教授 (90118836)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | パウル・クレー / ハンス・ドリーシュ / 実験発生学 / 生命形態 / 近代絵画 / 美術史 |
研究概要 |
画家パウル・クレーにおける同時代の生物学の知見、とくに実験発生学の基礎を築き、同時に有機体/生命体の哲学を追究したドイツの生物学者ハンス・ドリーシュの研究との出会いを理論的かつ実証的に分析・調査した。 まず、理論的な側面ではクレー研究ならびに形態学の伝統の水準でゲーテの自然科学研究を行い、そしてドリーシュの1890年代から1910年代にかけてのウニの発生学的実験の画期的意義を究明した。その一環として、2012年2月3日に「クラシッシェ・モデルネにおける生命研究」と題する研究会を開催し、前田による「ドイツ近代絵画と生命中心主義」、後藤文子(慶應義塾大学准教授)「近代建築にみる生命への関心」、そしてわが国のドリーシュ研究の泰斗である米本昌平(東京大学先端科学技術研究センター特任教授)「ハンス・ドリーシュの新・生気論」の発表のもとに討議を行い、従来ほとんど関心が寄せられなかった発生学と形態生成の問題圏に関して、理論的水準において豊かで新しい知見を獲得した。 実証的な調査として、2012年3月5日~15日にドイツ、イタリアに出張を行った。まずイエナ大学エルンスト・ヘッケル・ハウス研究所でトーマス・バッハ博士の支援のもとにドリーシュとヘッケルの交流を書簡から調査した。またナポリの海洋生物研究所のアーカイブでは本研究所内でのドリーシュの革新的研究がどのように発信されていたかを調査した。1902年にクレーがこの研究所の水族館を訪問した際に、ドリーシュの研究に注目した可能性が大きいことを確認した。 本年度は、以上の理論的研究および実証的な調査から、20世紀初頭における自然科学と芸術制作に通底する関心、すなわち生命形態への共通した取り組みが新しい価値観を形成した事態を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
画家における生命形態、とくにたんなる常識的意味ではなく、実験発生学という特定領域への関心と知識獲得はおおむね、明らかにしつつあるといえるが、同時代における「生活改善運動Lebensreform」における生命研究など、画家の日常に影響を与えた状況については、未調査な部分が多い。本来、ミュンヘンやライプツィヒなどにおけるこうした運動の状況ほか、実証的なフィールドワークを実施しなくてはならなかったが、本務校における勤務状況もあり、実現できなかった。この点は文献ほか資料解釈・研究にて補った。2月に開催した米本教授との研究会は、国内では前例のない研究会として参加者(金子務・形の文化会会長ほか)から高い評価をえた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の計画を継承し、再度、ドイツ・スイスにおける資料調査を実行する。またクレー研究の小規模ながら専門的研究アーカイヴの計画も進捗させる。また、20世紀初頭における心理学領域の問題検討のために、定量性を重視する現代の認知心理学とは異なる感情心理学に関して研究会を開催の予定としている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度3月の調査旅行経費の一部が本24年度の支出となる。24年度の研究費は、設備備品費100(千円)、消耗品費50、外国旅費450、謝金等250、その他50、の計900(千円)を使用予定としている。
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