研究課題/領域番号 |
23520134
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
前田 富士男 中部大学, 人文学部, 教授 (90118836)
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キーワード | 国際情報交換 / ドイツ / スイス / クレー / オストヴァルト / ヘッケル / ゲーテ |
研究概要 |
本年度は画家パウル・クレーの制作論を19/20世紀転換期における生命研究から検証する作業を進展させた。とくに年度前半はこれまでの申請者のクレー研究を統括し、とくに生命研究の論点を補強し、単著『パウル・クレー 造形の宇宙』慶應義塾大学出版会、2012年10月31日、491頁。を出版した。これはわが国における最初の総合的クレー研究書で、また生命研究、形態学、発生学をふまえた最初の西洋近代美術研究ともなった。さらに本年度前半のモニスムス研究をふまえ、論文「モニスムスと生気論と生命中心主義――宮澤賢治/中原實/バウハウスにみる芸術と生命」を『東西文化の磁場』山野英嗣編、国書刊行会、2013年3月、239-281頁に成果を発表した。これは申請者が分担者として参加した基盤研究(A)「東西文化の磁場」(2009-2012)の研究実績と関連もするが、ドイツの生命研究が大正生命主義成立に果たした役割を最初に指摘した論考である。 本年後半は、ゲーテの植物学やヘッケルの発生学を再検討し、明治学院大学言語文化研究所主催のシンポジウム「植物を描く/植物で描く――ドイツ語圏の美術でたどる植物表現の可能性」では、19世紀のゲーテ以後の近代美術に関する総論を提示し、他の7名の専門研究者と植物的生命について討議した。3月4日には中部大学にて本助成にもとづく研究会「<生動>する形象とは何か――芸術制作と生命論」を若手美術史研究者4名とともに開催し、申請者は「カゼルタ庭園とイエナ大学植物園とヴァイマル公園――ゲーテとクレーの原植物」を発表した。3月9日~19日には本助成による出張で、ライプツィヒ近郊の「オストヴァルト協会」、ドレスデンの「ゲルハルト・リヒター・アーカイヴ」、ミュンヘンの美術史中央研究所、スイス・ベルンの「パウル・クレー・センター」ほかにて生命主義、モニスムスに関する一次資料の調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験発生学、生命研究、形態学、モニスムスについては研究を進捗させ、その成果は単著『パウル・クレー 造形の宇宙』によく反映しえた。またわが国の大正生命主義に果たしたドイツの生命研究の役割も、わが国で初めて申請者が論考にて指摘しえた。 本研究課題の協働性については、明治学院大学におけるドイツ美術史プロパーの専門研究者7名との充実した植物表現研究シンポジウムと、中部大学で開催した若手研究者4名とのテーマ研究会「芸術制作と生命論」で優れた成果を共有できた。前者は、『言語文化・30号』「特集:植物を描く/植物で描く」、明治学院大学言語文化研究所、2013年3月、6-193頁、にて公表された。 本年はライプツィヒ近郊グロースボーテンの「オストヴァルト協会」のアーカイヴにてモニスムス関連の資料調査にて示唆深い成果を獲得した。生命研究と色彩研究との接点については今後、多様な進展が期待できることを確信した。 クレーの研究資料をめぐる「クレー研究アーカイヴJapan」については、資料は集成したものの、パソコンへの実装ほか、データベース構築の技術面での申請者の知見の不足もあり、進捗をみていない。クレー研究文献集の日独2カ国語による出版計画もやや停滞した。「おおむね順調」のおおむねとは、この点に関する自己点検にもとづく。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度にあたるので、この2年間における申請者の研究を総括し、論文の形式にて本課題をめぐる研究成果を集約して発表する。またほかに、単著として関連テーマ(ゲーテ形態学や生命的色彩など)のもとで出版を実現したい。 本年の出張時に現在のドイツにおける19/20世紀転換期の生命研究にふれ、あらためてイェーナ大学の生物学者エルンスト・ヘッケルの役割、そして現在の同大学ヘッケル・研究所の活動に注目せざるをえなかった。再度、同研究所に調査訪問を行う計画を検討している。その成果が上記の発表や出版に不可欠となる。 クレーの文献集の刊行、アーカイヴの稼働については、やや規模を縮小しつつ、実現、実装、運用を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度 研究費使用計画 物品費 40,000円 旅費 460,000円 人件費・謝金 200,000円 その他(印刷費・会議費) 300,000円 小計 1,000,000円 なお本年度の外国出張の旅費経費の支出が予定より少額となったので、該当分は次年度の経費支出に充当する。
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