本研究は19世紀になってイタリア半島に初の統一国家であるイタリア王国が誕生することにともなって成立した「イタリア美術」という概念の形成過程を、絵画を中心として、遺産としての過去の美術の扱いと、同時代美術の動向との関係を通して明らかにしようとするものである。 研究最終年である平成25年度は当初の計画通り、イタリアでの補足調査を行い、イタリア王国政府の美術政策面から研究全体を纏めるべく、全調査結果をふまえて「イタリア美術」概念の形成に関する分析を進めた。その概要は以下のごとくである。 「イタリア美術」という概念が、イタリア王国内において形成されていくなかで、以下の三点を指摘できる。第一にイタリア美術史の編纂事業においてイタリア半島内における美術が振り返られ、その過程においてその独自性と世界への発進力が改めて認識されるようになったこと、第二は美術史編纂事業を通してイタリア国内における美術品の保護の充実が訴求され、この観点に基づく公私の美術館制度の整備がなされていったこと、第三は「イタリア美術」というブランド力の国際的な場面における効果が認識され、イタリア王国による美術外交という施策に展開していったことである。 さらに第三の点に関し、外交という国家間における交渉はイタリアからの発信のみならず、近隣国における「イタリア美術」という像の確認・受容が、イタリア国内における「イタリア美術」概念形成に大きく寄与したことを指摘できる。
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