研究課題/領域番号 |
23520152
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
永由 徳夫 群馬大学, 教育学部, 准教授 (30557434)
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キーワード | 書論 / 書道史 |
研究概要 |
日本の草創期の書論である『夜鶴庭訓抄』について、これまでの研究を踏まえてさらに多角的な検討を行った。これまでは『夜鶴庭訓抄』の校定作業に力点を置いたが、平成24年度は〈秘伝〉をキーワードに日本書論を検証した。さらに、これまでの中国書論研究では検討されることがほとんどなかったが、中国書論に対しても〈秘伝〉の視点から切り込んでみた。 平成24年度は、前年度に行った学会発表「秘伝としての書論」(第22回 書学書道史学会大会 平成23年11月12日 大東文化大学)に基づき、論文「〈秘伝〉の視点から俯瞰した日中書論」(『書学書道史研究』第22号)を作成した。ここでは、〈秘伝〉という観点が、日本書論のみならず中国書論にも見られること、日本書論では〈秘説)の意味合いが強いのに対し、中国書論のそれは〈秘訣〉としての色合いが濃いことを指摘した。また、日本書論においては〈秘伝〉を標榜することで、実は却って家の書を後世に伝えていきたいという強い決意の現れであることを論述し、新たな視座を示すことができた。 また、「中世書論の意義と展開」という題目で研究発表も行った(公益財団法人無窮会 第58回東洋文化談話会発表会 平成24年11月11日)。この発表では、まず、なぜ日本書論が秘事口伝の要素の濃い、書式故実を主として述べるに止まるもの、という固定化した概念でとらえられてしまうのか、という疑問を提示した。これに対し、「秘」する形を取ることが、結果として後世に伝え遺す最大最良の方法であったこと、そして日本書論は中世当時の社会と文化の大きなうねりの中で成立したことを述べた。さらに、諸々の経過を経て醸成された中世の書論の延長上に、近世の入木道資料が存在することも指摘した。日本書論の展開を検討することが、新たな日本書道史観樹立につながることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、『夜鶴庭訓抄』を中心に、〈秘伝〉というキーワードによって、日中書論を検討することができたからである。日本書論研究では、これまでも〈秘伝〉の観点から語られることはしばしば見られたが、中国書論を〈秘伝〉によって検証したことは、新しい試みである。この成果は、論文「〈秘伝〉の視点から俯瞰した日中書論」(『書学書道史研究』第22号)としてまとめた。ここでは、〈秘伝〉という観点が、日本書論のみならず中国書論にも見られること、日本書論では〈秘説)の意味合いが強いのに対し、中国書論のそれは〈秘訣〉としての色合いが濃いことを指摘し、新たな視座を示すことができた。 第二に、日本書論を中世から近世にかけて俯瞰することが出来たことが挙げられる。平成24年度は、これまでの研究を踏まえ、中世書論は当時の社会と文化の大きなうねりの中で成立したことを述べ、〈秘伝〉の要素を有することが、却って家の書を後世に標榜することにつながったと、見解をまとめた。さらに、諸々の経過を経て醸成された中世の書論の延長上に、近世の入木道資料が存在することも指摘した。日本書論の展開を検討することにより、新たな日本書道史観樹立につながる可能性を見出すことができた。 以上の二点により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
『夜鶴庭訓抄』の翻刻作業は引き続き行うとともに、書論研究が書道史観をどのように下支えするのか、という観点からも研究を進めていきたい。蒐集した写本を基に、精緻な校定作業を行う所存である。また、この校定作業を踏まえ、現代語による解釈にも取り組んでいきたいと考えている。 平成24年に行った研究発表「中世書論の意義と展開」を基に、今一度検証を行い、論文も作成したいと考えている。この論文を通じ、「秘」する形を取ることが、結果として後世に伝え遺す最大最良の方法であったこと、そして日本書論は中世当時の社会と文化の大きなうねりの中で成立したことをまとめたい。さらに、中世の書論の延長上に、近世の入木道資料が存在することも指摘することで、日本書論の展開を検討することが、新たな日本書道史観樹立につながることを示唆していきたいと考えている。 また、平成25年10月には、研究者の勤務先である群馬大学教育学部を会場に、書道関係の全国規模の学会が開かれる予定である。このような機会を十分に利用し、多くの研究発表からおおいに教示を得たいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
書論・書道史関連の図書の拡充をめざしたい。また、日中書論の連関を研究していく上で必要な、漢文学・国文学・日本史・中国史等周辺分野の図書も補充していく予定である。 また、調査・研究の利便を図るための機器の購入、パソコン関係の消耗品、文具一式を購入したい。 平成24年度に引き続き、学会に参加して情報収集を行う他、各地の博物館・美術館等に出向いて資料収集を行う予定である。これまでと同様、積極的に資料収集・情報収集を行う所存であり、調査・研究旅費としておおいに活用したいと考えている。
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