研究課題/領域番号 |
23520152
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
永由 徳夫 群馬大学, 教育学部, 准教授 (30557434)
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キーワード | 書論 / 書道史 |
研究概要 |
世尊寺家六代目・藤原伊行『夜鶴庭訓抄』を中心に、中世書論研究を進めた。これまで行ってきた校訂作業を踏まえ、平成25年度は現代語訳に取り組んだ。その一つの成果として、「新釈『夜鶴庭訓抄』(一)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』第63巻 2014)をまとめた。これは、京都・青蓮院蔵本等、中世の初期写本に基づき、新たな解釈を試みたものである。 これまでの『夜鶴庭訓抄』研究における現代語訳は二書に見られるが、いずれも近世の流布本である『群書類従』所収の『夜鶴庭訓抄』を訳出したものである。これらは、『夜鶴庭訓抄』の梗概を知る上で利便ではあるが、近世の流布本によって中古・中世の書芸術観を論ずることによる時代的齟齬は免れない。今般行った現代語訳では、この時代的齟齬を払底することを第一義として進めたものである。故に、「新釈」と冠した次第である。今般の現代語訳を通じて、中世の初期写本と近世の流布本とでは、巨細に及ぶ相違点が見出せた。 一例として、中世においては「大嘗会悠紀主基屏風」の揮毫をもっとも尊重するが、近世では「内裏額」の揮毫を最上のものとする点を挙げたい。時代を経て、『夜鶴庭訓抄』というテクストの普遍化、一般化により、「大嘗会悠紀主基屏風」と「内裏額」に対する人々の重み付けの意識の変化が読み取れる。このような意識の変化を読み解くことは、単に書法故実を述べたものとする従前の日本書論観に一石を投じ、書道史研究に新たな視座を与えるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由として、これまでの『夜鶴庭訓抄』の校訂作業を通じ、中世の初期写本を底本として現代語訳に着手した点が挙げられる。これまでの『夜鶴庭訓抄』研究が、近世の流布本に依拠してなされてきたことを考えれば、大きな転換といえよう。 中世の初期写本を底本として訳出することで、本来の中古・中世の書芸術観を論ずることが可能となった。 この成果は、「新釈『夜鶴庭訓抄』(一)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編』第63巻 2014)としてまとめ、 従前の書論研究を前進させた。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、本研究の最終年度として、『夜鶴庭訓抄』の現代語訳を完成させたい。これにより、日本書論が単に書式故実を述べたにとどまらないことを証明したいと考えている。現代語訳の完成を広く周知することで、書論研究を深めることにより、書道史研究はさらに新たな視座を得ることになることを指摘したい。 本年度も学会・研究会等に参加し、また、各種展覧会を鑑賞することで、多くの知見を得、論文作成に役立てたいと考えている。
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