美術鋳物の着色効果についてこの3年間の最終研究を実施した。調査に関しては、過去2年間で東京藝術大学に所蔵されている鋳銅着色見本の調査や、調査地としては、国内では富山県高岡市、新潟県での調査を実施し、また、国外においてはイタリアのレッジョで、古代ブロンズ像の調査を実施したが、本年度は、これらの調査を基に鋳銅見本百数十個の着色工程までの実作を行った。実製作の内容は、直径8cm程度の円盤状の形態を基本形とし、合金の割合、熱処理の方法、仕上げ方法、着色の方法等の区別をして、その過程での状況、最終的効果を検証した。合金の割合については、熱処理を念頭に置いて、基本的には、BC6種のブロンズに、純銅を10%、20%、30%、40%にそれぞれ変化させて加えて鋳造した。鋳造方法は、生型鋳造法で実施した。熱処理の方法は、素焼、ミソ焼を各種展開した。素焼については、焼成時間、焼成方法、焼成温度、焼成燃料の炭の種類に留意し、各種見本の作成を行い、それぞれについて検証した。仕上げ方法、着色方法については、東京藝術大学で実施されている内容と、今回各地域で得られた調査内容や文献をベースとして熱処理を施した各種鋳銅品を対象に実施した。結果として、特に素焼においてその焼成温度、焼成内容での再現性の有効範囲の獲得ができたことが成果であった。また、素焼で発生する朱銅も合金の比率を変えることで発生しやすい状況を把握することができた。その朱銅をより効果的に発色する方法も今回の成果としてあげられる。ミソ焼においては、合金比率、硫黄の混合比の変化での比較検討を行った。これによる肌の荒れかたにある程度の法則性を見いだすことができ、その後の着色処理での効果を計算できる内容が把握できた。全体を通し、技法に習熟した作家以外でも目安となる指標のようなデータを獲得できたことは本研究の主な事項の目的の達成となった。
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