研究課題/領域番号 |
23520159
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
福中 冬子 東京芸術大学, 音楽学部, 准教授 (80591130)
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キーワード | 現代音楽 |
研究概要 |
今年度はまず、初年度の研究結果発表として、7月にイタリア・ローマで開催された、国際音楽学会大会(5年に一度開催)にて、冷戦による心理的文化闘争がいかにして音楽領域における現代創作・受容史の記述に作用してきたのか、とりわけ音楽領域における「モダニズム」概念の定義付けに、好むと好まざるとに関わらずどのような方向付けを示唆してきたのかを巡る考察を、戦後日本オペラにおける創作美学の変遷とその記述の有り様を中心に論じた研究発表を行った。これは2013年に英国ラトリッジ出版から刊行された_Vocal Music and Contemporary Identities_にも所収された。 また8月には、スイス・バーゼルのパウル・ザッハー財団において、ピエール・ブーレーズに関係する一次資料を調査し、とりわけ50年代から60年代後半にかけてブーレーズが、モダニズムの旗手として反共団体の裏書を得ながらも独自の政治思想を維持した経緯を、同時期フランスの哲学・社会思想の代表格(J・クリステーヴァ等)との関連性を通じて検証した。この調査からは、「インテリ層」に根強く残る左翼思想への「憧憬」および反米思想故に、元来モダニスト的自由思想とは相容れないものであるはずの社会現実主義的文化政策と、音楽創作言語の更新への飽くなき探求との間で揺れ動く芸術家のあり方が見えてくる。 3月にはニューヨークの市立図書館芸術部門およびニューヨーク大学附属図書館タミメント館所蔵の資料を通じ、40年代終わりから50年代を通じてニューヨークを中心に立ち起こった一連の反共主義的活動の記録を検証した。この結果は10月に台湾で行われる国際音楽学会東アジア支部大会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来、「文化的自由のための会議」を中心に、冷戦と音楽創作・受容史との連関を調査する研究題目であったが、「会議」関連資料を調査する内、この当団体のみを通じた検証では、本来明らかにされるべく、矛盾を含む多くの動機からなりたつ「冷戦と音楽」という構図の全体像が、十分に解き明かされることはないという結論に至った。よって、切り口を複数化し、60年代フランスの思想状況やニューヨークを中心とした米国人インテレクチュアル(史学者も含む)による活動などから多角的に本題目を検証することとし、その方法論の変更により若干当初の予定とは異なる調査を行なってきたが、全体として順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、ヨーロッパ(特にフランスとドイツ)における「音楽的モダニズム」と、米国におけるその裏書・記述作業との間にどのような齟齬が存在したのか、40年代終盤から60年代にかけて刊行された文化・政治系定期刊行物やその他の出版物を通した検証を行なっていく予定である。また米国国会図書館に所蔵されているストラヴィンスキー、コープランド、トムスン関係の一次資料を通じて、作曲家を通じて「会議」が播種を試みた「文化的自由」の射程やその限界を考察することも予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
関連図書・資料の購入。米国国会図書館での資料調査の実施。
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