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2011 年度 実施状況報告書

性の解放と資本主義-労働力の均質化をめぐる表象文化論的考察

研究課題

研究課題/領域番号 23520166
研究機関名古屋大学

研究代表者

越智 和弘  名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (60121381)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード支配文明 / 資本主義 / 超自我 / 系統発生論 / 禁欲
研究概要

初年度の目標であった、労働力の均質化を生みだす西欧の支配文明としての基本構造を明らかにする課題を果たすべく研究は進められた。地球上に数ある文化のなかで、どうして西欧だけが普遍性を主張する支配文明となりえたのか。研究は、多くが当然の前提として見過ごしがちなこの疑問への答を真摯に模索するなかから、西欧だけが世界に規範を提供する支配文明となりえた理由の核心を、諸文化の固有性や差異を超えた「だれもが参加できる制度」を生みだしたことに見いだした。その観点に基づき、支配文明を、特定の地域や民族に限定されず一定の知識と能力さえもてばだれもが参加しうる人間関係を生みだしえたことにあると定義した。その上で、この「だれもが参加しうる人間関係」こそが、じつは近代資本主義であると位置づけた。 つぎに研究は、資本主義がアルプス北方ヨーロッパに生まれ発展した理由には、この地域にしか存在しない特殊性があるはずだという仮説のもとに、それが何であったのかを解明することを課題とした。その結果、16世紀に資本主義を生みだし、そこからやがて労働力の均質化を宿命づける制度を、5世紀近くにわたり発展させてきた西欧文明の核心には、フロイトが展開した超自我をめぐる言説が大きく関係している可能性に気づいた。性的な活動を断念させ,代わりに労働への意欲を産出するための監視法廷である超自我がもつ厳格さは、けっして普遍的に有効なものではなく、北方ヨーロッパの厳格な自然環境においてこそその必然性が認められるものである。となると、普遍を主張する支配文明が、じつはきわめて特殊限定的な環境条件から生まれたことになる。この事実を踏まえたうえで、それでは西欧はいかにして「だれもが参加できる制度」へと転換しえたのか、そのためには何が必要であったのかを考察することを次の課題と定めた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

研究課題である労働力均質化のメカニズムを解明するうえでの最初の課題であった西欧支配文明の基本構造を、「労働力均質化時代の性と文化 I.支配文明の基本構造(1)」と「労働力均質化時代の性と文化 I.支配文明の基本構造(2)」という二つの論文にまとめた。これらは、数ある世界の文化のなかで西欧文化のみが支配文明の高みに上り詰められた理由を、「だれもが参加しうる」普遍的機制として資本主義を生みだしたことに見いだし、しかし同時に、資本主義誕生の契機をなした禁欲の世俗的浸透が,けっして普遍化を目指したものではなかった矛盾に焦点を当てて議論するものであった。 さらに、日本独文学会からの執筆依頼を受けた論文「肉体液状化の恐怖-68年世代とナチスを結ぶファシズム身体論」と、他の科研分担者としてではありながら、本研究テーマにとり重要な意味をもつ論文「去勢恐怖とユダヤ人憎悪 -フロイトの超自我をめぐる系統発生的文化論」をまとめた。これにより、当初の研究計画が目指した内容は十分に達成できたのみならず、支配文明の基本構造を解明した後に想定される、性的禁欲と超自我をめぐるドイツ的特殊性の解明に向けた重要な方向性が示せた。

今後の研究の推進方策

平成23年度に得られた成果、すなわち西欧支配文明の基本構造を明らかにしたうえで、つぎに着手すべき課題は、そもそもこの研究に着手するきっかけをなした原点とその位置づけを明示することである。それは、20世紀後半期を特徴づける二大現象としてある性の解放運動とフェミニズムをとおして現れる、西欧に独特なセクシュアリティがもった意味を検証することであった。それらは、一面では当時の若者たちが主体的に求めた運動であったかのごとき様相を呈しながら、じつはそれは資本の巨大化、グローバル化にとって欠かせない意味をもつものであった可能性が高い。これまでほとんど解明されてこなかった性の解放と資本主義の関係に光を当て、性と女性の解放が、労働力の均質化を究極目標に拡大する資本が是が非でも乗り越えねばならない障碍であったことを解き明かすことが、今後の研究の最大の課題となる。 性の解放運動が資本主義と密接に関係している証は、この運動が活発化した地域が,そもそも資本主義を生みだしたプロテスタント精神の浸透した地域とみごとに重なることにみいだせる。したがって今後の研究は、性の解放とフェミニズムが強く叫ばれた地域において、セクシュアリティと女性がどのような位置にあったのかをまとめることと、それらが、資本主義の精神を生みだす震源地であったドイツ語圏においてどのような意味をもったのかを解明するという二つの内容をテーマに論文を発表することを今後の目標とする。

次年度の研究費の使用計画

本研究は、性の解放と資本主義の関係が労働力の均質化を目指すものであることを解明した後に、そもそも資本主義を生みだす源泉にあったドイツ的なるもの、すなわちプロテスタント的禁欲の精神が、じつはそうした西欧近代の潮流には本来的に逆らうもの、つまり労働の均質化や効率化を嫌う性格をもっていたことを論証することを最終的な目標としている。そのために、次年度に繰り越した経費も含め、ドイツにおける資料収集に当てることを計画している。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件)

  • [雑誌論文] 労働力均質化時代の性と文化 I.支配文明の基本構造(2)2012

    • 著者名/発表者名
      越智和弘
    • 雑誌名

      言語文化論集

      巻: 33巻2号 ページ: 47~60

  • [雑誌論文] 去勢恐怖とユダヤ人憎悪 -フロイトの超自我をめぐる系統発生的文化論2012

    • 著者名/発表者名
      越智和弘
    • 雑誌名

      境界の消失と再生 - 19世紀後半から20世紀初頭の欧米文学

      巻: 1巻 ページ: 9~30

  • [雑誌論文] 肉体液状化の恐怖-68年世代とナチスを結ぶファシズム身体論2012

    • 著者名/発表者名
      越智和弘
    • 雑誌名

      ドイツ文学

      巻: 144号 ページ: 印刷中

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 労働力均質化時代の性と文化 I.支配文明の基本構造(1)2011

    • 著者名/発表者名
      越智和弘
    • 雑誌名

      言語文化論集

      巻: 33巻1号 ページ: 33~45

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公開日: 2013-07-10  

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