最終年度の研究成果 これまで絵の具の剥落などの作品の状態により実作品の調査が難しかった土田麥僊の代表的な大作「海女」(6曲1双屏風、京都国立近代美術館蔵)と「島の女」(2曲1双屏風、東京国立近代美術館蔵)、長い間所在不明であった「三人の舞妓」(1916年、額装、個人蔵)、基本資料となる「倶舎曼荼羅模写」(掛軸、笠岡市竹喬美術館蔵)の調査を終えることができた。土田麥僊の人物画の解明のためには、構図や題材とともに技法が大きく関わっていることが本研究過程でますます明らかになった。絵の具の剥落やヒビなど傷みを引き起こすような革新的な新しい技法を詳細に調査できた意義は大きい。これらの調査結果から古典的な技法との比較、また同時代の他の画家の技法との比較により、麥僊の特異性がより明確にできるからである。また竹内栖鳳展の開催(東京国立近代美術館・京都国立近代美術館)、笠岡市立竹喬美術館での調査(小野竹喬「暮るる冬の日」)、京都市美術館での調査(村上華岳「聖者の死」大下絵)などによって、栖鳳、竹喬、華岳ら京都画壇の作品調査も進めることができた。 他方、麥僊の作品がヨーロッパででどのように評価されたのか、という新しい視点による研究課題については、北欧の画家ニルス・ダルデルへの影響を見出した。ニルス・ダルデルはディアギレフが率いたバレエ・リュスに対抗し得る前衛バレエ団バレエ・スエドワの舞台美術も手がけ、1920年代のパリで活躍したスウェーデンの画家である。これは新知見であり、同時代の西洋の画家からの評価という視点で麥僊の人物画の特異性を指摘できると思われる。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果 京都、東京、新潟、佐渡、島根などに所蔵される代表的な麥僊作品について実際に調査できた意義は非常に大きい。近代京都画壇の革新性と、その中における麥僊の特異性、独自性を人物画という観点からまとめていきたい。
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