最終年度である平成25年度には、複数の浪曲師・曲師の方を対象にしたインフォーマルなインタビューを継続させ、また、浪曲以外の三味線音楽研究者との相互交流をはかった。それらから、浪曲三味線の現在の「手」(旋律型)は、過去からずっと変化せずに在るわけではなく、時代とともに変化している、という見方の妥当性が得られたと考え、この見方を、前年度までに行ってきた「手」の音楽学的分析に改めて反映させて、理論形成をおこなった。研究成果は小冊子の形にまとめた。 本研究は、明治期に誕生し、口頭で伝承されてきている浪曲の三味線演奏について、現在使用されている諸旋律型を整理した上で、史的変遷をふまえて演奏のありかたの展開を明らかにすることを目的とした。研究期間全体を通じた結果として、第一に、現在伝承されている浪曲三味線の旋律型の種別は、浪曲の二大様式、すなわち「関東節」と「関西節」では異なっていること、第二に、20世紀初頭の録音にも見られる演奏様式の特徴を受け継ぎながら、時代の推移とともに、現在伝承されている諸旋律型が徐々に形成されたと考えられることが、導き出された。浪曲三味線の音楽学的研究は、本研究以前にはほとんど手つかずの状態にあったことから、本研究は、今後の浪曲研究者のためのたたき台を、また他の三味線音楽との比較を可能にする最低限の土俵を、つくった点で意義をもつ。
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