研究課題/領域番号 |
23520172
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岸 啓子 愛媛大学, 教育学部, 教授 (40036489)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バッハ / 古典音律 / ピカルディ終止 / 平均律クラヴィア曲集 / チェンバロ演奏 |
研究概要 |
研究テーマIのバッハ音律については、バッハ音律による演奏(CD・DVD等)を収集し、音律と調性の性格の関連、音楽的効果について「平均律クラヴィア曲集」のなかの数曲を分析・検討した。明らかになったのは、ハ長調のように、比較的純正な響きに近い主要3和音をの響きを持つ調に於いては、純正な響きの美しさを活かす作曲法を採用し、逆に、嬰ハ長調のように、不純な比率が高い調では、響きを楽しむ様式ではなく、ダイナミックな運動性に特徴を置くなど、調による響き方の違いを計算に入れた作曲法が採用されている事が明らかになった。 あわせて、久保田チェンバロ工房からイタリアン1段鍵盤チェンバロ購入し、調的性格を発揮した演奏表現をめざし、「平均律第1集」ノ数曲および、「インヴェンション2声」「シンフォニア3声」、バッハ:イタリア協奏曲について演奏研究している。併せて、通奏低音に使用されることの多い楽器であるため、ヴァイオリンソナタの伴奏パートのあり方についても、当時多様な作曲家が取り上げた「ラ・フォリア」を対象に、コレッリ、ヴィヴァルディの書法と演奏法について検討を進めた。「イタリア協奏曲」およびヴァイオリンソナタについては、24年度に演奏発表を予定している。 ピカルディ終止についてはバロック時代の多様な楽曲についての終止法の分析方法を検討している。バッハの「平均律クラヴィア曲集」第1巻・第2巻の短調曲の分析をとおして、バッハは例外なくピカルディ終止を使用していることが明らかになった。またそれ以外の鍵盤楽曲に於いても短調曲におけるバッハのピカルディ終止またはユニゾン(オクターブ)への集中は際立っており、その後のモーツアルトとはこの点で一線を画していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマIのバッハ音律については、バッハ音律の音程関係を再検討し船土地を確認し、ほかの古典音律と比較した。音律と調性の性格の関連、音楽的効果について「平均律クラヴィア曲集」のなかの数曲を分析・検討した。明らかになったのは、比較的純正な響きに近い主要3和音をの響きを持つ調に於いては、純正な響きの美しさを活かす作曲法を採用し、逆に、嬰ハ長調のように、不純な比率が高い調では、響きを楽しむ様式ではなく、ダイナミックな運動性に特徴を置くなど、調による響き方の違いを計算に入れた作曲法が採用されている事が明らかになり、音律の特徴が作品の性格特性に大いに影響を与えているという基本的特質を確認できたことは、本研究に一定の意義を与えるものである。 あわせて、久保田チェンバロ工房からイタリアン1段鍵盤チェンバロ購入し、調的性格を発揮した演奏表現をめざし、「平均律第1集」数曲および、「インヴェンション2声」「シンフォニア3声」、バッハ:イタリア協奏曲について演奏研究した。また購入した新しいチェンバロを弾きこくことで、楽器の響きを安定化させ、コンサートでの使用が可能となってきた。通奏低音(演奏とリアリゼーション)についても、当時多数の作曲家が取り上げた「ラ・フォリア」を対象に、検討を進め、効果的な響きを探求した。「イタリア協奏曲」およびヴァイオリンソナタ通奏低音演奏は、24年度6月にに演奏発表を行う。 ピカルディ終止の考察では、バッハの「平均律クラヴィア曲集」第1巻・第2巻の短調曲で、バッハは例外なくピカルディ終止を使用していることを明らにした。またそれ以外の鍵盤楽曲に於いても短調曲におけるバッハのピカルディ終止またはユニゾン(オクターブ)への集中は際立っていることが明らかになった。これについては、バッハ音律のみが原因ではなく、当時の中部ドイツの地域特質の狭い短3度音律に起因するとの仮説をたてた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は分析研究を進めるとともに、バッハ音律または比較検討のためにそれ以外の音律で、バッハの鍵盤楽器作品の演奏を実践し、演奏者の観点から、音律の効果を検討したい。あわせて、購入したチェンバロを使用したミニコンサートを行い、チェンバロ音楽を普及に努める。24年度に愛媛県立美術館で開催される「ヴェネチア展」にあわせてヴァイオリン奏者とミニコンサートを展覧会場で実施し、演奏研究の中間的成果発表を行う。ピカルディ終止については、理論的考察を進め、唸りゆえに終止への使用を避けられることになった、とする申請者の仮説を、理論的、実践的により深く検証してゆきたい。分析はバッハのオルガン曲のほかイタリア、スペイン、フランスの同時代のチェンバロ曲についても行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1991年購入したカワイ製2段鍵盤チェンバロ(ブランシュモデル)が経年劣化し、演奏会使用に不安をきたすようになって来たので、24年度はオーバーホールを行い、楽器を再生させる。オーバーホールは、制作者に依頼することが望ましいが、カワイがチェンバロ制作を数年前に中止したため、カワイ以外で、最適なチェンバロ制作工房に依頼する事になる。東京芸大・上野学園大・国立音楽大学の図書館に出張し、バロック鍵盤音楽(オルガン含む)の終止法を分析検討したい。これらの図書館では図書の貸し出しは行っているが、楽譜の貸し出しはないので、東京に出張し、図書館に一定日時通いながら研究を進める必要がある。
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