本研究は、中国清末民初、詩・書・画・印四絶を誇り、「中国最後の文人」と称された呉昌碩と、当時の日本人士との交流を検証することにより、近代日中芸術文化交流の重要な一断面を明らかにすることを目的とする。 研究期間中、研究代表者は、「日本における呉昌碩の受容」等の関連論文を9本執筆、「長尾雨山と呉昌碩」等の関連研究発表を4回実施し、2013年8月17日、大妻女子大学で開催された第2回中国近現代文化研究会大会に併催する形で、筑波大学の菅野智明博士・准教授の科研費と共同して国際シンポジウム「近代書学の越境」を開催、米国ボストン大学の白謙慎(Qianshen Bai)博士・教授、香港中文大学の張恵儀博士・講師を基調講演講師に招き、菅野准教授と研究代表者も加わって国際シンポジウム「近代書学の越境」を開催、研究代表者は、「近代日本における正鋒意識と呉昌碩の重要性」と題した報告を行った。この報告の主旨に、白教授および張講師も大いに賛同された。また、2013年10月24日、研究代表者は、呉昌碩が初代社長をつとめた学術団体である杭州の西レイ(さんずいに令)印社110周年大会「西レイ(さんずいに令)印社国際学術研討会」において、呉昌碩唯一の日本人弟子・河井セン(草かんむりに全)廬と呉昌碩の関係を考察した提出論文「河井セン(草かんむりに全)廬之親炙与私淑」に基づく研究発表を行い、研究者の関心を集めた。 研究代表者の呉昌碩研究が注目される理由の一つに、中国側資料のみならず、日本側第一次資料を使って論を展開している点があげられる。呉昌碩の書画篆刻作品が、大正期の日本で好評を博し、「呉昌碩熱」とも言われる現象を引き起こしたことが、呉昌碩に多大な影響を与えていることは、世界中の研究者の認識するところである。そんな中、研究代表者の研究は、興味関心を集めており、その継続発展が望まれている。
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