研究課題/領域番号 |
23520185
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
DETHLEFS H・J 中央大学, 文学部, 教授 (60256005)
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キーワード | 人物と画面の素地 / 背景 / 人物の置かれた状況 / 人物と背景の中間領域 / 事物の動化 / 人物と媒介 / メッセンジャーとしての光の衝撃 / 絵画行為 |
研究概要 |
私はレオナルド・ダ・ヴィンチの芸術理論を、(1)人物と背景の関係―近代初期の絵画における画面全体の構成の問題(2)レオナルドにおけるId(d)a は女神か?(3)レオナルドとゲーテー知覚理論における相応関係、の3つの観点から考察した。 J. Stumpel, T. Puttfarkenらによれば、ルネサンス期の絵画構成の概念はその後の時代のそれとは根本的に異なっている。構成はレオナルドにとっても絵画のイデーもしくは創作の内的なインスピレーションと誤解されてはならない。人物―背景の関係に関する私の研究は、絵画全体の背景という考え方はレオナルドにおいてはまだ見られず、その意味において時代錯誤であることを明らかにした。レオナルドにあっては、それぞれの状況に置かれている個々の人物(人物群像)がむしろ出発点である。彼は、事物の世界を静的に(線的、構造的な完結性において)捉えるのではなく、それが見る者の目にあるものは飛び込んで来るし、あるものは逆に退いて見えるように描いた。レオナルドの関心は、人物と彼を取り巻く世界の関係における「間」、即ち人物と背景の両極を媒介する「中間領域」にあった。対象はそれらを媒介するMedium、空気に満たされた空間により知覚される。Mezzoとは人物の世界を取り囲みつつ関連付けている絵画的フォーリエであり、そこから人物の世界は前景に向かって展開されるのだという考え方が生まれる。人物-背景の区別はむしろ人物と媒介物の区別の問題となり、人物物(人物の群像)自体が媒介物の役割を担う事もある。絵画史上初めて、人物配置の構造的原理をメディア理論的に捉える可能性がレオナルドにおいて生まれたと言える。絵画は、絵画的行為という出来ごととなり、「光の衝撃」 がいわばメッセンジャーとなって人物の別の側面や性格を見る者に伝える。絵画は行為をもって見る者にメッセージを伝えるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は-昨年度と異なり-いくつもの理論上の問題という困難に遭遇した。それはレオナルドの遠く未来を先取りするコンセプトの受容が矛盾に満ちている故である。なかでもヴァザリは、事物を動的に捉えるレオナルドのコンセプトを理解しきれず、美術史の伝統におけるGenimiの考え方によって、これを修正しようとした。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度、私は、レオナルドの絵画理論における対象の概念の、ヴァザリおよびフロレンツの彼の同僚たちにおける受容の問題を解明したい。また、レオナルドにおける “Idea“ に関する概念史的研究を完成したい。成果は25年度には終えて発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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