研究課題/領域番号 |
23520189
|
研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
小坂 直敏 東京電機大学, 未来科学部, 教授 (20366389)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 電子音色辞書 / 環境音 / エフェクト / 音色記号 / レーベンシュタイン距離 / IPA / 音合成 |
研究概要 |
本研究は、環境音を対象とした1)電子音色辞書の構築、2)音合成システムの構築およびこれらの統合システムの構築を応用上の目的とし、これらを独創的なシステムとするため、環境音の聞こえをIPAに基づいた音色記号で表して、これをもちいた逆引き検索も可能とする点が特徴である。また、そのために音色記号の聞こえの心理的特性を調査すること、また音色記号の設計を行うこと、これらを応用した譜面の作成、楽曲の制作、およびこれらの成果の啓蒙、および広報を目的とした制作発表会の実施が研究の骨子である。 23年度は音色記号の聴知覚特性の調査と音色記号の新たな設計を柱としていた。この中で、環境音の聞こえの特性を検討する方法として、擬音語の文字列の平均値および分散をレーベンスタイン距離を機軸に据えて検討する方法を提案した。これを用いて、環境音の再現性や、さまざまな要因での変動を分散値を用いて調べた。この結果、言語音はその分散が小さいこと、また、環境音でもシラブル、あるいはモーラに相当する音韻数の小さいものはその変動が少ないが、これらが大きくなるとその変動も大きくなり、なんらかの方法で正規化することが必要とされることが明らかになった。いくつかのサンプルの定量値は明らかにしたが、オームの声など一貫性のある聞き方ができる被験者とまったく聞き取れない被験者など、距離の分布が単峰性でない特徴も現れ、サンプルの収集法についてはまだ考察がいることも明らかになった。これらの定量的な検討結果は23年度秋の日本音響学会秋季発表会で報告した。 このほか、制作を目的とした音合成システムをHTML5で構築した。同システムは、音素材の合成、音素材のエフェクト掛け、これらの作曲への利用などの異なるモードのスムーズな移行とデータの引継ぎを容易に行える特徴がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度の当初計画からみると大幅に遅れている。当初は、音色記号の知覚特性把握と、IPAに基づく新たな音色記号の設計が大きな柱であった。前者は検討を行い、学会発表もしたが、まだ事例研究の域にとどまっている。音声、楽音というだけでもオープンでどのように対象を絞るかが大きな問題だが、環境音という対象はそれにも増して大きな対象である。これをどのような理由でどう絞ってその特性を把握するかが明確でなかったため、特徴はいくつか定量的に算出したが、まだ結論が出ていない。 また、音色記号の設計についてはまったくの手付かずで進展していない。これらの遅れに至った理由は、担当の学生の研究にかける時間が当初予定よりも大幅に減じられたためである。 一方、進展したものとしては、初年度計画していなかった音合成システムが立ち上がり、合成モード間の容易な移動、という特徴を達成できた。ただし、これを加味して総合的に判断しても全体計画からはやや遅れている。 また、当初予算に比べて23年度の予算執行率が低いのは、音をどのように分類し、何をどのような目的で収集するか、という考え方が実験間で統一とれず、2期にわたった実験の対象とした音声がやや違った種類であった点などから、今後どのような音を収録(収集)すべきか、という基本的な考え方とその具体的計画と実施が進まず、その結果この存在を前提にした知覚実験が頻繁にできなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
3年の研究期間の中で、予算は基金化され執行に柔軟性ができたため、当初計画の順序でなくとも、全体で計画項目が実施できればいいと考える。そこで、大方針を以下のように変更する。1)常にシステムは構築しアップしていく。また、2)音色記号を使って譜面化すること、電子音色辞書、および合成システムが制作に資すること、などを常に制作発表により啓蒙、および広報することを心がける。次年度以降は音色が音声のようにころころと短時間の中で変わる音楽を取り上げ、これらの記載に譜面が大きな役割をなすことを紹介する場を設ける予定である。 また、音色の聞こえの特性調査と、音色記号の設計については、研究に必要な音データを収集することが必須である。そこで、3)音色データを数量的に充実させるため、音データを収録まで含んでより多くのサンプルを収集する。 2)については、制作事例を先に作ることにより譜面という実体から考察する方法も同時に取っていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
23年度は上記の理由により、音収録に関係する人件費あるいは心理実験に要する業務委託費などの予算執行ができず、その分の110万円が基金化されている。24年度はこれを考慮して、さらに24年度分の中から100万円を加え、総額210万円として予算を組み直し研究費の使用計画をたてる。 物品費として音収録、編集などのための人件費として81万円を使用予定する。この業務は映画への音の挿入など、音響効果なる職能の人を採用して同業務補助を依頼する。また、このほかに心理実験の被験者収集、実験実施業務代行などの業務委託費用に30万円、また演奏会実施に関わる人件費で20万円、学会発表(ICMC他で65万円)を計上する。
|