研究期間を1年延長して平成26年度までとし、平成25年10月に死去した三善晃を対象に研究する予定であったが、三善の自筆譜等を受託した日本近代音楽館でまだ閲覧に供する状態ではないため、平成26年度は三善に限定せず数人の作曲家を対象とした。「器楽作品と声楽作品の関係の諸相に見る日本の作曲史」は日本の作曲史という背景そのものを対象とする研究であったのに対し、平成26年度の研究は、その背景を構成する個別の作曲家を対象とすることになった。 平成26年度における科研費に関わる報告を次に挙げる。(1)楢崎洋子「日本におけるオーケストラとその作品」(藤田由之編『音楽家近衛秀麿の遺産』所収)では、日本の職業オーケストラの設立とレパートリー形成、日本人作曲家の創作管弦楽曲に対する評価、等、近衛が指揮者・作曲家として活躍した年代における、作曲界、演奏界、アカデミズム、在野、等様々な立場と価値観がオーケストラをめぐって交差していた状況を論じた。(2)楢崎洋子「武満徹の音楽――二面性を示唆する楽譜」(国立音楽大学音楽研究所報告書に掲載予定)では、琵琶、尺八とオーケストラのための武満《ノヴェンバー・ステップス》と《秋》を主な対象として、邦楽器とオーケストラの異質性あるいは同質性の評価の根拠が混乱している状況を整理し、邦楽器の特性を薄めることなく互換的に渡り合うオーケストレーションの手法を明らかにした。(3)シンポジウム「音楽批評のボーダーレス化――日本の伝統音楽と現代音楽との邂逅」(平成26年度文化庁「大学を活用した文化芸術推進事業」お茶の水女子大学)では、フランス・アカデミズムとみなされる傾向にあった三善晃は、交響曲を成立させ展開させてきたヨーロッパの文化を自身とは相容れないものと認識して交響曲と題する作品を書かず、その手法は日本語の音の特性に依拠していたことを指摘した。
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