我々は昨年度より、アーティストから具体的な指示を受けるかたちで新たな作品の制作に取り組み、様々な試行錯誤を経ていくつかの作品の骨格をつくり上げていった。本年度はそれらをブラッシュアップしつつ、アーティストから新たに提示されたコンセプトとの融合を図って、「思考」を「表現」に落とし込んでいった。 そこでは「思考」と「表現」をつなぐものとして、現代のメディアテクノロジーを積極的に取り入れることで、極めて斬新な作品が出来上がった。その作品は、アーティスト自身が60年以上も前に制作し、わが国の前衛芸術を代表する作品として知られる「ヴィトリーヌ」的な手法を現代にリバイバルしたもので、これを我々は「ヴィトリーヌもどき」と名付けた。 そして上記の新作の発表の場として、また3年間に渡る本研究の集大成として、メディアアーティスト山口勝弘の「今」を紹介する作品展を企画し、10月に神戸芸術工科大学内のギャラリーセレンディップを会場として「回遊する思考:山口勝弘展」を開催した。この作品展は、これまであまり知られることのなかった病気療養後の山口作品を一同に紹介する貴重な機会となり、病気により不自由な身体となりながらも、決して「つくる」ことを諦めない前衛芸術家の強固な信念を、作品を通して広く世に知らしめることができた。
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