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2012 年度 実施状況報告書

アイヌ口承文学的解釈学の創出

研究課題

研究課題/領域番号 23520208
研究機関東京大学

研究代表者

坂田 美奈子  東京大学, 総合文化研究科, 教務補佐員 (30573109)

キーワードアイヌ / 口承文学
研究概要

本研究はアイヌ口承文学の構成や意味伝達についての内在的なルールを見出し、それに従って物語を解釈するための方法論を提起することを目的としている。具体的にはアイヌ口承文学に頻出するモチーフの存在に着目し、モチーフ自体の意味、モチーフ間関係、モチーフと話型の関係、モチーフを共有する物語間の関係、といった観点で分析を行い、アイヌ口承文学を読み解く上でのモチーフの役割について考察する。そのための素材として、金成マツ(1875~1961)という伝承者が親類や自らのレパートリーを筆録したノートの分析を行っている。
二年目の今年度は、昨年度に引き続き、知里真志保遺稿ノートのなかの金成マツ筆録ノート(北海道立図書館蔵マイクロフィルム)の複写・PDF化を行った。これは金成マツが甥の言語学者、知里真志保(1909~1961)のために書き残した口承文学の筆録ノートである。散文説話が中心を占めるが、他に神謡、英雄叙事詩、歌謡、鳥の聞きなし、なぞなぞなど多様なジャンルの伝承184点が記録されている。このうち、本研究の目的には直接関係のない歌謡や鳥の聞きなしなどを除く、未公刊の部分128点について収集を完了した。
これと平行してノートの翻刻およびモチーフ抽出にも着手した。現在まで20点分のモチーフ抽出を行い、エクセル表に入力し、モチーフ相関図を作成中である。モチーフ相関図作成作業については、まだサンプル数は少ないものの、物語のモチーフ構成を表をにして、並べることによって、頻出モチーフの存在と物語間の関係が可視化され、本研究の目的であるモチーフ分析のみならず、アイヌ口承文学の研究を合理化し、進展させるために、極めて有益であるという感触を得ている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

資料の量が想定していた以上に膨大で、収集に予定以上の時間を費やすことになったため、作業が予定よりも遅れている。しかしながら、本年度はモチーフ相関図の作成に着手することが出来た。
モチーフ相関図の作成は、物語ごとに物語を構成するモチーフを抽出し、その全てをエクセル表に入力するという形で行っている。そうすることで、各物語のモチーフ構成だけでなく、物語間の相関関係などが可視化される。この表に基づいて、モチーフの意味、モチーフ間関係などが明らかになり、アイヌ口承文学の解釈方法を考えるという本研究の目的を達成することができるという感触を得ている。
例えば、疱瘡、夜襲のモチーフは村の再生という話型とほぼ確実に結びついている。アイヌ社会は19世紀前半に疱瘡の流行による大幅な人口減少を経験した。歴史学的には、和人によるアイヌの漁場労働者化、浜での集住、和人との接触期間の長期化などが背景とされ、場所請負制の弊害のひとつに数えられている。
アイヌ口承文学に疱瘡の物語は多くみられる。疱瘡は疱瘡神によってもたらされ、一村を滅ぼす恐ろしい病である。しかしながら、疱瘡モチーフの物語において、村の滅びは物語の発端であり、必ず生き残りの少年か少女がいて村は再生される。疱瘡神は大抵の場合、海の彼方や、村の外から船団を組んで現れるが、疱瘡モチーフの物語に、和人が登場することはほとんどなく、疱瘡は対和人関係とは結びつかない。むしろ、アイヌ村落間の問題である夜襲モチーフとの距離が近い。
歴史学が和人との関係に結びつけて論じてきた疱瘡について、アイヌ口承文学はそれらを分節して考える。このような現象の意味を考察することによって、アイヌ口承文学的な認識論の考察を深めることが出来るだろう。モチーフ相関図は、アイヌ口承文学の個々の物語の読解を助けるのみならず、以上のような認識論上の課題の発見にも役立つと考える。

今後の研究の推進方策

平成25年度は、これまでに収集した資料の整理(翻刻、読解、モチーフ抽出)を引き続き行う。さらに、既に刊行されている金成マツの英雄叙事詩についてもモチーフ抽出を行う。以上の作業によって、金成マツ・ノートにおけるモチーフ相関図が完成する。
この相関図をもとに金成マツ・ノートにおける、再帰的モチーフのあり方と役割を分析し、その概要をまとめる。モチーフ共有関係にある複数の物語を分析することで、モチーフの持つ意味を分析したり、特定のモチーフが別のモチーフや特定の話型と密接に関係している事例から、アイヌ口承文学的認識論の問題を考察することができるといった、諸特徴を洗い出し、理論化したい。
一方で、抽出できた個々のモチーフ全てについて、意味や役割の特定など詳細な分析を、この一年で行うことは難しいと考える。したがって、疱瘡、婦女略奪、六悪人など、いくつかのモチーフをサンプルとして選び、モチーフ相関図を活用した具体的な物語解釈を行うことで、方法論としての有用性を示したい。

次年度の研究費の使用計画

次年度の研究費は、補足的な資料調査のための旅費(東京‐札幌間)、および参考図書購入費にあてる。参考図書はアイヌ研究関係図書および口承文学研究関係図書を中心に購入する。また、スウェーデンのウプサラ大学で予定されている先住民研究のシンポジウムで研究成果の一部を発表する予定であり、その旅費(東京‐ストックホルム間)として使用する。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2013

すべて 図書 (1件)

  • [図書] MINERVA世界史叢書総論『「世界史」の世界史』2013

    • 著者名/発表者名
      坂田美奈子
    • 総ページ数
      未定
    • 出版者
      ミネルヴァ書房

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公開日: 2014-07-24  

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