1 伝本調査・研究 名古屋大学小林文庫、名古屋市蓬左文庫、西尾市岩瀬文庫、熊本大学図書館永青文庫、東京大学総合図書館南葵文庫、国会図書館他の調査・収集を行い、伝本に関わる情報の収集・整理を行った。本年度までに蒐集した各伝本に関わる情報や本文情報について、全体的な整理をすると共に、各々の関係について分析・研究を行った。東大総合図書館蔵享保六年版本後印本(B40-1384)は、版本ながら、片仮名写本の奥書を狩谷望之(=狩谷棭斎)が書き込んだものを、更に萩野懐之が写したかと思われる書込があり、妙覚寺本を追求する手がかりの一端を得た。この他、平仮名本の欠脱部分を片仮名本で補ったものとして広く知られた彰考館本に加え、名大小林文庫本152、書陵部蔵村雲本も、「補巻」として同様に片仮名本の佚文を伝えることを確認した。片仮名・平仮名写本に、版本の書き込み情報などを加えた本文校訂の作業は、当初予測以上に時間がかかり、若干の作業を残した。また作品研究に繋げるための説話の管理や利用の視点からする研究として、長谷寺の縁起についてこれを行い、数多く伝わる長谷寺縁起群を分類することによって、説話の担い手を探る研究も行った。 2 享受に関わる研究 明治期以降現代に至る『十訓抄』に関わる出版物を調査し、『十訓抄詳解』などの再版も含めのべ約100点の出版を確認した。明治三十四年(1901)に『十訓抄詳解』が刊行される以前から、一部に所謂教育(あるいは学習)用のテキストが提供されているが(ex「高等国文」)、その後『国民文庫』(1910年)にも採られ、更に刊行は増加する。1930年代をピークに第二次大戦後1950年代には極端に落ち込むなどの傾向について分析した。
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