研究課題/領域番号 |
23520215
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝庸 新潟大学, 人文社会・教育科学系, フェロー (90143742)
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キーワード | 平曲譜本 / 平曲指南書 / 當道資料 / 平家物語 / 平家琵琶 / 琵琶法師 / 息継ぎ点 / 終止感 |
研究概要 |
本研究は、平曲(平家琵琶・平家語り)に関する諸史・資料(特に當道資料)を歴史的・藝能史的に整理し、また現在に伝わる演奏関係の資料(平曲譜本、平曲指南書など)を整理しようとするものである。そのことは、『平家物語』における文学と音楽の構造的な関連を考究しようとの大きなねらいに資するものがあると考えている。 本年度の研究実績は以下の通りである。 (1)『平家を語る琵琶法師』の刊行。…平家物語の享受史に関しては、これまで先学によるいくつかの成果があるが、それらの見解を踏まえながら、諸史・資料を見直して、新見を提出した。 (2)臺灣大學圖書館特藏組所蔵平曲譜本の調査。…旧台北帝國大学所蔵和古書には平曲譜本が四点含まれていて、このうち「正節」系譜本というべき三点(いずれも零本。『平家正節』二点、『平家物語』一点。なおもう一点の波多野流譜本は現在所在不明)について、その補修作業の支援をすでに行ったところである。本年度から内部の調査を開始した。すでに『平家正節』に関しては、「息継ぎ点」に独特のものがあると判断し、紹介ならびに考察を公表しているが、(写真撮影不可のため)できるだけ原本の状態(本文ならびに譜記)を忠実に収集すべく書写ならぬパソコン入力を行った。本年度は予定全体量の五分の一ほどを終了した。 (3)『平家物語』のテキストと音楽の関係に関する考察。…「息継ぎ点」という観点もこのテーマに絡むものだが、本年度はあらたに、平曲の各曲節それぞれの最末尾の音の収まり方に注目してみた。私自身の(橋本敏江師よりの伝授も継続中)演奏体験に基づきながら、特に〈中音〉の類の音の収まり方について、「型」の確認と「型からはみ出るもの」の意味を考察した。これは『平家物語』をどのように句切って語るのかという問題の検討につながっていくと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
琵琶法師による平家物語の伝播、平家物語の享受史に関する考察は、琵琶法師と「物語」との結びつきに関して新見を出し、鎌倉・室町時代の琵琶法師に関しても史料解釈案をいくつか出した。諸研究者より、平易な行文を評価され、内容もほぼ肯定的に受け止められている。二三の研究者より、質問をいくつか受けたので、それらを一括して私見をあらためて公的に述べる機会をもち、この方面のことは一区切りにする予定である。 臺灣大學圖書館特藏組所蔵譜本に関しては、当初の予定をかなり超える調査が必要ということが明らかになったので、本研究の当初計画がさらに大きくなったと言えるだろう。 しかし、平曲譜本の悉皆調査は大目標としても、次第に「どこに注目すべきか」ということが分かってきているのは大きな成果と言えるのではあるまいか。そして、やはり特別な(少数の)伝本の貴重さに着目をするのではなく、もっとも伝本の多い『平家正節』(「正節」系譜本)を丁寧に調査すべきだということが一層強く考えられるようになったことも大きな進展と言えると思う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下のように考えている。 (1)『當道資料集成』の刊行。…本研究の柱のひとつである主要「當道資料」の集成を刊行する。これは出版社と約束済みである。『當道要抄』『當道大記録』『古式目』『當道新式目』『當道拾要録』『妙音講縁起』など、すでに私は個別に検討発表済みのものを、見直した上で、一書にまとめる予定である。「當道資料」に関する研究はこの刊行で一区切りとしたい。 (2)臺灣大學圖書館特藏組所蔵平曲譜本の調査。…これに関してはかなりの時間が必要である。
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次年度の研究費の使用計画 |
この二三年、本研究において臺灣大學圖書館特藏組所蔵平曲譜本に関する調査・検討が、かなり重要な位置を占めている。本年度は、夏休みを利用しての調査が一週間ほどしか確保できなかったためである。 次年度は、夏休みおよび春休みを利用して、臺灣大學圖書館特藏組所蔵平曲譜本の調査を、それぞれ三週間ほどを計画している。この他に、『當道資料集成』刊行準備のために資料調査をいくつか行う予定である。
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